「磨く」

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「でもね。僕、ずっと別れようと思っていたのですよ」 「は、なんで!?」 「こんな僕と付き合っているという事実を、彼女に背負わせたくなかったんですな。彼女にはもっとすてきな人がいる。痩せていて、二重で、オタクじゃなくて、優しい人。ずっとそう思っていました。そう思っていた矢先に彼女が留学し、僕は死んだわけです。まぁ上手いこと出来てるもんですな、あはは。それに……」 「あーあーあー、やめて、耳が痛いわ」  私は近藤の言葉を制止した。その場は時が止まったかのように静かになって、私は思わず港に目をやった。波は穏やかで、汽笛の音もやわらかかった。それと反対に、私たちの心は、思いのほかざわざわと動いていた。 「耳が痛い?」 「あなたさ、私の見た目見て、どう思う?」 「どうって、それ言って僕キモくなりませんか? でもそうですねぇ、ワンピースも似合っていますし、その口紅的なやつもきれいだと思います。なんて言うんだろう、メイクが全体的にきれいですよね。濃くもなく、薄くもなく。まぁ僕の推しはもっとメイク濃いめですけど、ぐふ」 「……昔の私の写真を見せてあげる」  そう言って私はスマートフォンの中に入っていた昔の写真を近藤に見せた。彼が見せたのと同じように、画面いっぱいに2人の顔面が映ったツーショットだった。
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