「磨く」

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 遠くでまた、汽笛が鳴った。時計を見ると、お墓に来てからもう2時間が経っていた。そろそろ帰らなくてはならない。 「なんかさ、天国にないの? 美容室とか、洋服屋とか」 「あぁ、ちらっと行ったときにはありましたな。でも僕、美容師さんと話すの苦手で、どうしても行きたくないんですが……」 「でも、少しでもかっこよくなっていたら、彼女さんも嬉しいよ、きっと」 「そ、そうですな! よーし、頑張って行ってみます!」 「あ、あとさ」 「はい」 「さっきさ、あなた自分の趣味とか見た目とかすごい否定してたけど」 「あ、まぁ、そうですねぇ」 「そのままでいいんだと思うよ」 「え、ちょっと、言ってることが違うじゃないですかさっきと!」 「だから、そのままでいいところはそのままでいいんだよ。好きなものとか、性格とか。彼女さんは、かっこいい人じゃなくて、あなたのことが好きなんだよ」 「あなたをあなたのまま、磨くの」  私は持ってきていたラベンダーの線香に火をつけ、近藤の墓にあげた。近藤は後ろで「おぉ、久々の線香の香りだ」と盛り上がっている。 「いい香りですな」 「また2週間後にあげに来るよ」 「お、じゃあ僕はそれまでに髪でも切ってきます。コンタクトにしようかな、思い切って」 「うん、それじゃあね」  こうして私たちは別れた。近藤の墓は、遠くから見てもピカピカに輝いていた。その横で、謎の太った幽霊はいつまでも手を振っていた。  帰り道、行きと同じように汚れている墓を何個も見た。今度、時間があるときにそっと掃除してあげたいと思った。いつ、誰と運命の再会を果たしてもいいように、私たちは、常に私たちをピカピカに磨いておく必要がある。
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