「磨く」

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「おっ、また会いましたな」  その男は今日もここにいた。5月にもかかわらず何故か汗をびっしょりとかいた額の上には、これまた謎の赤いバンダナが巻かれている。これまた汗をかいた顔にはサイズの全く合っていない眼鏡が添えられていて、その下には今どき誰が着るんだというような謎の柄のTシャツと、何のアニメかさっぱりわからないキャラクターのリュックサックがある。私はこの手の人と仲良くなったことはないが、これがいわゆる「オタク」であるということくらいはなんとなくわかる。  でも、この男に、足はない。 「いやー、だいぶ暑くなりまして。こういう時はアクアちゃんの水魔法が必須ですなぁ」 「まだ5月ですけど」 「十分な暑さではありませんか! 僕なんかもう汗ばっかりで」 「死んでも人って汗かくんですね」 「普通はかかないそうです。なぜか僕だけ汗まみれ。まぁ有料コンテンツみたいなものですかね、金払ってませんけど、あはは」  そう、この男は幽霊だ。1年前に交通事故で亡くなって、この霊園にやって来たらしい。ただ、なぜか完全なる成仏が出来ずに、幽霊としてこの霊園周辺とあの世周辺を彷徨っているのだそうだ。ちなみに私にしか見えない。
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