Vanilla Thunder

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 虚脱しきって横たわって、うたた寝て。  目を覚まして、なんとか喉を潤すための飲み物だけを手にし、またベッドへと横たわる。  疲れ果てた身体とは裏腹に、ポッカリと覚醒した意識を持て余すようにして入江が、 「なあ……」と、天馬に呼びかけた。 「結局、『バニラ・サンダー』って、なんだったんだよ」  天馬が軽く目を見開いた。  長い睫毛、深い眼窩。 「色々な意味合いはあるが……『バニラ』は白を指す。さらには『白』であることを、やや軽蔑する響きがある」 「あ? 『白であること』……って?」 「『白人だ』ということだ」  天馬が続ける。 「ごく平たく言ってしまえば……白人のクセに、黒人が得意とすることに憧れて、器用に猿真似をするような人間を貶す言葉だ」 「なるほど」と、入江が軽く頷いた。 「あれだ? 『スティービー・ワンダーに憧れる白人ピアニスト』みたいなモンだな」 「ああ、そんなようなものだ。さらに言えば『黒人並みに巨大なペニスを持つ白人』になる」 「って、天馬。オレは普通に、交じりっけなしに日本人だぜ?」 「馬鹿。そういう意味ではなく……」  言いかけて天馬は、入江の大きな瞳が、からかう色にクルクルときらめいているのに気が付く。 「オレが、ゴスペルを歌いたがる白人みてぇに『ヤクザのモノマネ』で潜入捜査してたマトリだ……って。そういうコトだろ?」  そう言って、入江はズルズルと引きずるような寝返りを打った。  そして、「あーあ」と、枕に顔を埋めながら言う。 「コイツは……こうなっちまったってのはよぉ、ぜってぇ……バレるよな」 「『誰』に?」 「田中に」 (バニラ・サンダー 終)
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