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友人の告白
「最初見たときは、さほどでもなかったんだ。
さらさらヘアがちょっと可愛いなと思ったくらいで。」
クラスでもかなり仲がいいほうの友人竹東は、棚梁の奢った学食のホットコーヒーとホイップあんパンには手をつけないまま、語り出した。
「何回目に見かけた時だったかな……。
中庭ですれ違ったんだけど、日差しに頬が光ってて、すごく白くて。
俺、ドキッちゃって。
それ以来、彼女のことばかり気になるんだ。」
剣道部の猛者が、生気も抜かれたような顔でため息をついた。
「そうか。
最近お前らしくない様子だなとは、思ってた。」
「見え見えか。」
「相手のことまでは、わからなかったけどな。
それで?
彼女への思いは、メシも喉を通らないくらいか?」
「ああ。
すごく、切ないよ。
こんな切なさは、初めてなんだ。」
目を伏せた竹東はもう、涙をこぼさんばかりである。
そんな友人に、棚梁は優しく言った。
「まあ、こうして打ち明けてくれたわけだし?
二人で考えようぜ。」
「ありがとう、心の友よ。」
「とりあえず、オレの奢りを受け取れよ。
腹が減っては戦はできぬ。
お前にはわかってるだろ、剣道部!」
「ははは、そうだな。」
竹東はホイップあんパンをかじり、コーヒーを飲んだ。
数十分が経った。
「ばっかやろー! おめーは中学生か!
この年になったらな、少しは風情ってもんも考えるぜ! 何が奪っちまえだ!」
「だよな!」
二人は少々お下品なトークで爆笑していた。
竹東の顔はイキイキとしていて、ガハハと笑っていた。
切ない恋心と思われたそれは、たまたま目に焼きついたカワイコちゃんと、空腹とのコラボレーションによる、幻だったようだ。
「お前に話したら、なんか気分変わったわー。
俺、むだに思いつめてただけかも知れねえ。」
「話してくれて良かったよ。
お前がしょぼくれてっと、教室の空気が重くてかなわねえ。」
「俺、普段そんなに騒がしくねえべよ。」
「見た目だよ、見た目。
図体のデカイのがしょんぼりしててみろ。
周りは騒ぎにくいぜ。」
「ははは、そいつはすまなかった。
ま、元気出たし、彼女のことはおいおい考えるわ。
今は全国大会のほうが大事だ。」
「そうそう。
そうきてくれねえとな。」
棚梁はいつもの竹東を前に嬉しくなった。
「またなんかあったら、いつでも話せよ。」
「ああ。これ、サンキュー。
礼は、全国大会覇者との記念撮影な。」
竹東は空の紙コップとあんパンの包み紙を軽く掲げて笑った。
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