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瓜二つ、けれども割ってみれば散らばる種は不揃いで。唯一無二の存在だから、まるで同じに居たくなる。違うこともわかっていたから楽しくて面白くて、だから同じことが不自由だなんて思ったことすらなかった。ずうっと変化のない時間しかないのならば、きっと知る時も来ないはずだった。
リリィは黄色、リスは白色。
商業で成り立つ小国で暮らす双子の姉妹のリリィとリス、家族すら見分けのつかない瓜二つの一卵性双生児。生まれた時から二人はそれぞれ同じ色の服ばかりを着ていた。違う色の服も持っていたけれども、着る機会は稀である。リリィがいるところにはリスがいて、リスがいるところにはリリィもいて、だから少なくともどちらかひとりは決まった自分の色の服を身に着ける。
いつも二人は一緒。二人一組のような存在。
これが当たり前のことで、こうしているのが心地よくて、だから二人はいつも一緒に行動をする。
言動もまるで似ていた。正しくは、一緒が好きだから似せていた。だから余計に見わけがつかない。
見分けるためのシンボルが必要であった。
だから服の色。
たまに服の色を替えて遊ぶことがある。いつもは一緒なのにそういう時はばらばらに街に出かけたりする。「やあ、リリィ」と声をかけられるとリスは「ごきげんよう!」と答えるけれど、「ごきげんよう!」はリリィだけが好んで使う言葉。「やあ、リス」と声をかけられたリリィも「ごきげんよう!」と当たり前に答える。みんなは「ややこしい!」と呆れるくせに「今日こそ見抜いてやる!」と躍起になって街が賑わう。
ふたりが住う商業区画は国の中で一番栄えたところであった。父はその区画のギルドの長をしている。親が街の顔だから、自然とリリィとリスは街人からも愛されるようになった。
リリィとリスは感覚も似ていた。共に育ってきたわけだから、ボキャブラリーもまるでそっくりだ。顔も背格好も声もみんな同じ。ようく観察すればまるで違うのだけれども、気付いているのは古参の女中ひとりだけ。ようくふたりを看てきた結果だ。両親すら判別が付けられない。
あまりにも同じところが多すぎて、違うところを探すのが困難すぎた。だから二人の違いに関して誰もが気にできないでいた。
おめかしをする機会がある時だけ、どちらかが黄色と白ではない好きな色の服を選ぶことができた。ふたりともがいつもと違う色を着てしまうとそれはそれで混乱するからひとりだけ。
決め方は平和的にじゃんけん。これは父が決めた約束事だ。ひたすら続くあいこの末にやっと決まる。そうして勝者はいつもとは違う色のお気に入りを身に着けることができた。
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