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自由気ままで明るいふたり、無邪気さは時々、ほんの時々問題を起こす。何か面白いことを思い付くとすぐに実行してしまう。
ふたりはマンツーマンの習い事をしている。そちらは一日掛で終わるのは日暮れごろ。マンツーマンだからこの時ばかりはふたりいっしょにはいられない。
その日は、リリィの日であった。
月に一回やってくる芸術家の先生、踊りや歌、それからバイオリン、一日でそれら全てのお稽古をする。
興行でたまたまやってきた彼に、ふたりはいつになく目を輝かせた。一緒にきたキャラバンの隊長は父とは長い付き合いであることをふたりは知っていた。頼み込んで頼み込んで、月に一回、キャラバンがやってくる時に一緒に来てくれることになった。
大好きな先生のお稽古の日、ふたり一緒にいるのが大好きなことなどなかったように、うきうきと出かけていく。特にリリィ。やはり細やかすぎてリス以外気づいていなかった。
リリィは先生のことが好きなのかなあ、とリスは思う。歳上の好青年、リリィはああいう人が好きなんだなあと思ったら少し淋しくなった。
淋しさは楽しいことで紛らわす。
なにか楽しいことをしようではないか!
一人でしかできないこと。
リスの視線は洋服棚に向いていた。
いつも身に付けている白い服にもお気に入りは存在するけれど、殆ど着ることのできない服の中にもお気に入りがある。それに袖を通した。そうしたら、心が弾んだ。心が弾んだから、リスはこっそりと街へ出掛けた。
リスでもリリィでもない気分、でも自分はリス。楽しい、楽しい、今までしたことのかなった遊び方。
何故かみんながリリィと間違えるのは白でも黄色でもない服のリスが必ずリリィの挨拶「ごきげんよう!」で通していくから。「リリィがね、ひとりで遊びに来てるんだよ!」と広まって、色んな人に話しかけられてリリィの振りをしておしゃべりを楽しんでみた。
リスは思った。ものすごく全てが似ていても、わたしとリリィは別の人。みんなが区別できなくても別の人。リスとリリィだけが気付いている事実。当たり前なのに誰も考えようとしない事実。
感性が全くもって似ていても、行動パターンが全くもって似ていても、違うことを思う時はもちろんある。リスとリリィはそれを認識していて、周りに気を遣って合わせあってきた。
バイオリン、本当はピアノが習いたかった。アコーディオンを奏でながら歌う青年の姿が一番印象に残っている。
ふと、リスは思った。
リリィの振りをして遊んでいたけれど、やっぱり自分はリス。リスでいた方が楽しいに決まっている。
なんだか庭である街中が嫌になってしまった。
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