6日目

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6日目

 その部屋には何も無い。窓も、テレビも、本も、パソコンも、音楽プレイヤーも。  あるのは、小さな仕切りで隠された部屋の隅のトイレ。そしてそのすぐ近くに床に空いた、小さな孔。ゴミを入れる為の孔。  ただそれだけの、六畳ほどの空間だけだった。天井も低く、ただ立って歩くには問題無いが、天井との距離が近いので閉塞感が強い。  いや、奇妙なものがまだ存在した。三つの孔だ。  部屋の一面、中間程度の高さに、等間隔で横一列に並んだ三つの孔がある。大きさは、腕が一本通る程度。真ん中の孔の少し上に緑のランプがあるが、通常は点灯しない。それが点くのは、一日一回決まった時間だけだった。  そんな部屋に、男が一人居た。同じ服を何日も来ているのか、ところどころが擦り切れ始めている。穴のある壁と反対の壁に背を預け、横になっていた。その目は充血し、虚空を睨むか正面の孔の壁を睨むかしており、全く落ち着いていない。  男には、左手の小指と人差し指が無い。欠損した指の断面からの出血は止まっているが、壊死が始まっていた。  男は、孔の壁にあるランプをじっと睨みつけ……そして、その時間が来た。  ぽーん、という間の抜けた音と共に、ランプが緑色に光る。一拍置いて、天井に埋め込まれたスピーカーから無機質で事務的な声がした。 『本日の当たりは、医療キットです』  ぴくり、と男の眉が上がる。体を震わせながら膝立ちをして、ゆっくり孔のある壁へと近付いていく。  壁の前で足を止めた男は、ダラダラと汗を流しながら三つの孔を交互に見つめた。  それから無言で、二十分以上も時間が経過する。まるで時間が止まったかのように、男は動かない。  やがて、ようやく男は意を決し、汗を右腕で拭った。右端の孔に近付き、恐る恐る、体を震わせながらゆっくりと左腕を差し込む。  緊張と恐怖に顔を歪ませながら、肩口まで腕に穴を入れたところで、左手の中指が何かに触れる。ボタンである。男は差し出す指を薬指に変え、歯を食いしばってそれを押す。  ぽーん、と再び間の抜けた音が響いた。  男の左手に、下から湧いた何かが触れる。素早くそれを掴み、男は必死に腕を孔から引き抜いた。布に包まれた、丸いものだ。大急ぎで包みを剥がし、男は中身を確認する。  ……医療キットだった。  消毒液、ガーゼなど、切り傷に適した治療道具が使い捨て程度の量、入っている。  男はそれを見た瞬間に泣き叫び、安堵の溜息を吐く。慌ててキットを使い、自分の左手に治療を施し始めた。

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