プロローグ

1/1
前へ
/13ページ
次へ

プロローグ

  彼女の首には一眼レフカメラがぶら下がっている。 吐く息が白い。 一面の白の世界にごつごつした岩の茶が隠れるように点在している。 彼女はそれを探し、双眼鏡で空を見上げた。 何日も登山を続けて追いかける。 待ち望んでいる、その瞬間を。 ファインダーを覗いた。 高みを目指す山頂。 雪を抱いた山々。 北風に凍えて鼻の頭が痛い。 さすがにこの高度では息が苦しい。 酸素ボンベで息を整える。 背のリュックが肩に食い込み、寒さに足先に感覚がない。 見えたのはヒマラヤ山脈。 カシャカシャとシャッターの音。 あの時、あの人は私に何を見せたかったんだろう。 何を教えたかったんだろう。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加