とおりゃんせ

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 沖田さんが寝起きした離れはこの辺りではないかという場所には公園がある。  近くにマンションがあるので、マンションに住んでる子ども達向けに造られたのかな、というくらいの、小ぢんまりとした遊具が2つくらいの小さな公園だ。  子どもと遊ぶのが好きだった沖田さんらしいな、なんて勝手に思ったりした。  でも背の高い建物に挟まれて、まだお昼なのに全然陽が当たらない。  暗い、というか少しジメッとした感じさえする。  それに、人が全然いない。車は通るけど、歩いている人やこの公園に立ち寄ろうする人は全然いない。  わたしはラッキーだと思った。  だって、ひとりで興奮気味に辺りを見回したり、お父さんに借りたカメラであちこち撮影したりしても、誰にも怪しまれずに済む。  残念なのは、この待望の景色に自分が写り込む写真を撮ってもらえないことだ。  あ、誰か居たところで頼む勇気なんかないかも。  他人にとっては何の由来かもわからない場所で、ひとり満面の笑顔でピースサインをする中2女子なんてきっと変に思われちゃう。  何度もいうけどスマホなんてないから、内側レンズなんてない普通のカメラを駆使してかなり苦労して自撮りをした。  現像したら、公園名が載ってる看板を背に、達成感溢れまくる表情で片手ピースをしている。  さて、一頻り満喫したところで、そろそろお腹も空いてきたし、いつまでも居るわけにもいかないから帰ろう。  ここで普通の人なら、そう、方向音痴じゃない人なら、今来た道を戻るだけのごく簡単な帰り道だよね。 「……あれ?」  本当にどうやって辿り着いたのか不思議なんだけど、全然頼りにならない地図を何となく見ながらほぼ勘で歩いて来たから、どこをどう通って来たのか全然覚えていない。  もちろん初めて来る場所だから、物珍しさや絶対に目的地に着くんだという気持ち、そしてお母さんにもあんなことを言われたんだから、しっかり周りの景色は見ていた、つもりだった。  来た道を戻っているはずなのに、歩きながらどう見回しても絶対に見覚えのない景色ばかりだ。  こんな道、さっきは通ってない。  行きは絶対に着きたい気持ちだけに動かされて歩いていたけど、帰りは全然違う。  さっきまで一度も感じなかった、不安を通り越した恐怖でいっぱいだ。  焦って、この道は帰り道じゃないのに、何故かすごく早足になる。春だけど少しだけ肌寒い日なのに、額はじんわりと汗ばんできた。  これも方向音痴の特徴かも、違うと思ったら引き返せばいいのに、また直感のみでズンズンと歩いて行く。
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