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「……足、痛い」
さすがにハイヒールをずっと履いているのは辛かった。というのも、用意されたハイヒールは普段履いているものよりも数センチヒールが高いのだ。あまり高いヒールを好まない愛美としては、これ以上に辛いことはない。
(あぁ、もうっ! こんなことになるのだったら、了承しなかったらよかった……!)
心の中で悪態をつきつつ、由宇花を視線で捜す。すると、彼女はすぐに見つかった。
由宇花は品のよさそうな三十代の男性とにこやかに笑いながら談笑しており、その様子はとても楽しそうだ。
周囲を見渡せば、共に来た女性社員たちもそれぞれ相手を見つけたらしい。その様子が何処となく眩しくて、愛美はまた「ふぅ」と息を吐いた。
「みんな、楽しそうだなぁ……」
思わずそんな声が漏れてしまった。
思えば、学生時代からそうだった。周囲が彼氏の話をする中、愛美はいつも聞き役だった。
幼少期の嫌な思い出の方が勝ってしまって、愛美は男性に近づくことが出来ない。いずれはそれも直さなければならないとはわかっていたが、どうしても後回しにしてしまったのだ。
(……私も、いつかは結婚しなくちゃなのに)
内心でそう思っていると、不意に目の前に誰かが立ったのがわかった。
驚いて顔を上げれば、そこにいたのは凛々しい顔立ちをした、一人の男性。
高級そうなスーツを着こなしている彼は、かなりの長身だ。顔立ちは男らしく、その口元は微かに緩められている。
その姿は、確かな色気を醸し出していた。
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