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「……お隣、いいですか?」
そう尋ねてきた彼の声は、心地の良い低さだった。
なので、愛美はぼうっとしてしまったが、すぐにハッとして頷く。そうすれば、彼は愛美の隣の椅子に腰を下ろした。
「……よかったら、どうぞ」
彼がグラスに入ったお酒を手渡してくる。恐る恐るそれを受け取り、愛美はぎこちなく笑った。
……さすがにこういう場なので、何か変なものが入っていることはないだろう。そう、判断した。
「あんまり、楽しそうじゃないですね」
愛美がグラスを受け取ったのを見て、彼が笑う。その笑みが何処となく自分と同じような雰囲気を醸し出している気がして、愛美はこくんと首を縦に振った。
「まぁ、そうですね。……わ、私、付き添いみたいなもので……」
さすがに騙されて連れてこられたというのは、いささか聞こえが悪い。由宇花の沽券にもかかわってしまう。
そんな風に考えたので、愛美は当たり障りのない答えを返した。
「そうですか。……俺も、似たような感じです」
彼はなんてことない風にそう言葉をくれた。……その言葉には嘘も偽りもこもっていない。どうやら、彼も本当に愛美と同じ状況らしい。
なんとなく、親近感がわいてしまった。
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