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「まぁ、何でしょうか。……俺の場合は、無理矢理押し込まれたという方が、正しいんでしょうけれど」
彼がなんてことない風にそう言って、目元を緩める。
先ほどまで大人の男性といった風貌だったのに、彼は目元を緩めるとまるで少年のようなあどけなさが見えてくるような気がした。
その所為で、愛美は思わず彼に見惚れてしまう。……男性に見惚れるなど、今までにない経験だった。
「……えっと」
「あ、申し訳、ございません」
彼が声をかけてきたのを聞いて、愛美は慌てて謝る。
じろじろと見ているなど、マナー違反どころか失礼にあたる。
だからこそ愛美は謝り、手に持ったグラスの中のワインを煽る。仄かな酸味が、喉を潤しとても心地いい。
「いえ、こちらこそ気に障っていたら、すみません。……いきなり、隣に来てしまって」
「……いえ」
少し素っ気ない言葉になってしまっただろうか。後からそう思って反省するものの、彼は特に気にした素振りはない。それに、愛美はホッと一息を吐く。
「あ、俺、拓海って言います。……あなたは?」
彼――拓海が名乗った後、そう問いかけてくる。なので、愛美はハッとする。……一番初めに、名乗るべきだった。
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