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(榊グループの社長令嬢だということは、伏せておいたほうがいいわよね。それに、このお方も苗字は名乗っていないわけだし)
そう思いなおし、愛美は笑う。その笑みが少々ぎこちないのは、勘弁してほしかった。
「愛美と言います」
胸に手を当ててそう名乗れば、拓海はその表情を緩めてくれた。何処となく色気たっぷりな容貌であり、ちょっと強面な彼。
けれど、やはり笑うと子供っぽい。……そういうところが、好感が持てるかもしれない。そう、愛美は思う。
「愛美さん、ですか」
拓海が愛美の名前を呼んでくれた。……何だろうか、この胸のざわつきは。
彼に名前を呼んでもらえると、何となく胸がぞわぞわとするのだ。……こんな感覚を、愛美は知らない。
「よかったら、この後も二人で話しませんか? ……俺、がっつく女性が苦手なんで」
そう言って、拓海が愛美に手を差し出してくる。……こういうとき、普段の愛美ならば遠慮なく断っただろう。
男性と二人きりで話すなんて、絶対に嫌だ。そう思ったはずなのに――。
(……拓海さんとだったら、もう少し話していてもいいかも……)
仄かに酔いの回り始めた頭は、そう思ってしまった。
ということもあり、愛美はこくんと首を縦に振る。ほんのりと熱が溜まった頬に気が付かないふりをして、拓海に笑いかける。
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