第1章 始まりの出逢い

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 その後、愛美も必死に抵抗したのだが、由宇花の「大丈夫だって!」という言葉に押されてしまい、ホテル『シルヴィ』に入ってしまった。  『シルヴィ』に入れば、フロントの女性が深々と頭を下げてくる。  彼女に案内され、とある一室に入ればそこは衣装室らしき部屋。そこで女性従業員にもみくちゃにされ、気が付けば愛美はパーティー用のドレスを身にまとっていた。そのドレスは赤と黒を基調とした派手なものであり、愛美にとてもよく似合っている。  が、愛美からすれば冗談じゃない。ここにもし知り合いがいたら……と思うと、気が気じゃないのだ。 (いいえ、知り合いはいないわ。……きっと、うん)  もう逃げられないと悟り、愛美は腹をくくる。腹をくくったのは本日二度目ではあるが、そんなこと関係ない。  騙されたとはいえ、婚活もといお見合いパーティーに来てしまったのだ。……存分に飲み食いして帰ってやろう。そう、思う。  そして、衣装室を出れば部屋の前には由宇花がいた。彼女は愛美を見つめて手招きしてくる。  由宇花もラフな格好からパーティー用のドレスに着替えており、その姿は見違えるように美しい。同性である愛美さえ見惚れてしまいそうなのだから、男性からすればさぞ魅力的に映るだろう。 「あとの二人は、先に行ったから」 「……由宇花も、先に行っておいてくれてよかったのに」 「だって、逃げるかなぁって思っちゃって」  それは確かに、間違いないかもしれない。  心の中でそう思いつつ、愛美は由宇花と並んでエレベーターホールに向かう。  由宇花曰く、会場は二十八階らしい。『シルヴィ』は高級ホテルということもあり、三十階建てだ。
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