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だからずっと彼は、下駄を履き続けた。
次第に背が伸び、足も大きくなって、下駄も何回か代替わりした。そのたび、あの人はやっぱり困ったように笑って、言った。
「おまえさんが必要としてくれるなら、下駄なんぞなんぼでも作ったる――せやけどな、これがなくてもええと思える日が早う来るようにとも、思うとる」
彼がぼんやり見つめ返すと、あの人はいつだって頭を撫でてくれた。
「それにはまず、心にもないことを口にするのを止めることからや。少しずつでええ――おまえさんの本音を聞かせてんか……あの日みたいに」
彼は言葉の意味がわからないふりをした。きっとあの人もそれに気づいてはいたけれど、何も言わずに、待っていてくれた。
彼が、心の底を打ち明けてくれる日が来るそのときを。
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