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悠然と落とした武器を拾い、コートの裏側に納めていくハンター。
力が抜けてしまったアンドレアは、その場にへたりこむ。
ここに来た時と同じように、周囲の風景がぐにゃりと歪み、古城が、誰もいない道が遠のいていく。
少しずつ、元いた路地裏に戻っていく。
ヴァンパイアが住む異界に繋がるもやが、完全に閉じたところで、ハンターは路面に聖水をまき、胸の前で十字をきる。
「……アーメン」
そして、呆然としているアンドレアの前にひざまづき、右手を差し出す。
「おじょーちゃん、名前は?」
「アンドレア。……アンドレア・ウォーカー」
「アンドレア、立て。家まで送ってやる」
隣を歩くアンドレアの手に、彼は金のロケットを握らせる。
「姉貴の形見になっちまって、すまない。これはお前が持っておけ」
あの状況の中で、拾っておいてくれたんだ。
次から次に溢れだす涙を拭うアンドレアの頭を、ハンターは武骨な手でそっとなでる。
「今夜は思いきり泣いて、クソして寝ろ。そしたら嫌でも朝はくる」
「ハンターさんは、これからどうするの?」
「俺は次の街に行く。ヴァンパイアの世界と繋がる空間の歪みを正して、人に仇なす奴らを狩る」
「……ずっと独りで旅して、寂しくないの?」
「俺が歩くのは修羅の道。……連れなんて必要ねえよ」
家に帰っても、もう姉さんはいない。
ひとりきりになるのは嫌だから、この人についていきたい。
そんな甘えを見透かされた気がした。
あえて厳しく突き放したのは、たぶんこの人の優しさなんだろう。
家はもう目の前。
アンドレアは懸命に笑顔を作る。
「じゃあ、ひとつだけ言わせて。助けてくれて、ありがとう」
ハンターは優しく微笑み、もう一度、彼女の頭をなでた。
「……じゃあな」
軽く右手を上げて、去っていく大きな背中。
あたし、がんばるよ。
姉さんの分まで、ちゃんと生きる。
心の中で、そう呼びかけたアンドレアは、きびすを返し、家に帰っていった。
【おわり】
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