5人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「お先に失礼しまーす!」
終業後、店を出たアンドレアは、先ほどの男がひとり
歩く姿を見つけた。
建物の角を曲がって、路地裏に入っていく男。
彼女は踵をかえし、男の背中を追いかける。
しばらく進んだところで、男は足を止め、振りむいた。
「俺に何の用だ?」
きつい眼差しに気圧されそうになりながらも、アンドレアは男の顔をまっすぐ見据える。
「ねえ、最近ここらで行方不明事件が多発してるの、知ってる?」
「ああ」
「ぶっちゃけ、あんたが怪しいなって思ってつけてきた。もしかして、あのバーで、獲物を物色してたんじゃないかな、って」
頭をかいた男は、小さなため息をつく。
「……見当違いもいいとこだな。おじょーちゃんは、早く家に帰ってクソして寝ろ」
「黒づくめのゴツいオヤジに、おじょーちゃんなんて呼ばれる筋合いないんだけど」
「化粧でごまかしちゃいるが、お前、せいぜい17、8くらいだろ?あのバーで、年齢偽って働いてんじゃねーの?」
アンドレアは悪びれることなく答えた。
「……そうだよ。あんたの言うとおり」
「つまり、ワケありってことか?」
「さっき、行方不明事件の話をしたでしょ?あたしの姉さんも、そのひとりなの」
たったひとりの家族である、姉のケイト。
早くに亡くなった両親の代わりに、自分を育ててくれた。
日中はスーパーマーケットでレジのパート。夜はあのバーでウエイトレスのバイト。
かけもちで働いて、疲れているはずなのに、姉が笑顔を絶やすことはなかった。
「あのバーで働いた夜、姉さんはうちに帰って来なかった。警察も探してくれてるけど、一向に見つからなくて……。だから、手がかりをつかみたくて、嘘ついてあそこで働いてたってワケ」
自分の事情を話し終えたアンドレアは、誰かが路地の行き止まりでうずくまっているのを見つけた。
「あれ?あの人……」
「……おい!」
男の制止を振り切り、彼女は駆けだしていく。
最初のコメントを投稿しよう!