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縁談
「額田王、今日はご苦労でした。
やはりそなたがおると、堅苦しいばかりの儀式にならず、華やいで良いの。」
「ありがとうございます。ですが、
そろそろ若い巫に経験を積ませて、
私は少し引っ込んだ方が良いのではと思っております。」
「まぁ、そなたばかりに頼ってはいけないが、まだまだ引っ込むのは早いのではないか。今日は十市も連れて参ったのか。」
「はい。私の手伝いをしてみたいと申しますので連れて参りました。」
「大海人とそなたを呼んだのは、十市の嫁ぎ先のことで相談したかったからなのじゃ。十市は母の後を継いで巫になるつもりなのか?
大海人は、誰か考えがあるのか?」
「帝、実は先ほど額田とも話していたのですが、長男の高市の正妃にと私は考えていたのですが…。高市の母も神職の家柄ですし、十市の異母弟ではありますが、年齢よりもしっかりしております。いずれは草壁皇子の片腕となれるよう文武に励ませております。」
「そうであったか。
額田はどう考えているのだ?」
「私は、本人の考えを尊重させるつもりでおります。私自身も、大海人さまとの間に十市を儲けたものの、妃にはならず巫として仕える道を選びましたので。
十市も幼き頃は、巫になりたいと修行に励んでおりましたが、近ごろは少し迷いが出て来たようでございます。
今少し、本人の気持ちが定まるのを待ちたいと私は考えております。」
斉明天皇は少し困り顔で言葉を継いだ。
「そうか…。両親の考えは、巫になるか、もしくは高市と娶せたいと…。
困ったのう…」
「どなたか、十市をお望みの皇子さまがいらっしゃるのでしょうか?」
「実は、中大兄が大友の正妃にと望んでいて、私に口添えしてくれぬかと言って参ったのじゃ。
知っての通り、中大兄は、皇女はたくさんおるが皇子が少ない。
しかも、皆母の身分が低い臣下の娘ばかり。中大兄の助けとなるにはまだ若すぎるし、十市は母の額田も皇族であるから、身分としては釣り合わぬのだが…、だから、そなたたちに話す前に私に口添えを頼みに来たのだろうが…」
「高市の母も豪族の娘ではありますが…。」
「だが、采女ではないし、同じ豪族といっても、高市の母方は宗像大社の神主を務める家柄。高市でさえ皇太子になるのは難しいのに、大友が皇太子になることは、まずないのだから…。
ただ、大王家が揺るぎない力を持つために、中大兄と大海人が強く結びつく必要があることは、分かっておるの。その為に中大兄は大海人に4人の娘を与えたのじゃ。それを考えて、十市を大友と娶せること、考えてはみてくれぬか?」
「私は父とは名ばかりで、私から十市に嫁げとは言えませぬ。
十市が承知するなら、仕方がないとしか。」
「額田はどう思う。」
「先ほども申し上げたとおり、本人の気持ち次第と思っております。
帝からお話があったことは伝えて、
よく考えるよう申しておきます。
巫として仕え、妃とならないことは、女がひとりで生きていくことは、表面的な華やかさばかりではないことも、この際ですので話しておくつもりです。
直ぐにお受けできず申し訳ございませんが、今しばらくご猶予をいただければと存じます。」
「わかりました。中大兄には、しばらく待つよう伝えておきます。
急ぐ話ではないが、そう先延ばしできることでもないから、頃合いをみて、良き返事がもらえることを期待していますよ。」
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