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オレはあの時ちょっと酔っていた。
残業の予定が無くなって7時過ぎにはアパートに帰った。餃子と酢豚を食べて発泡酒呑んでホロ良い気分になっていた所で、カーテンの陰に誰かいる気がした。「誰だよ、出て来いよ」とカーテンを開けたら上半身だけの女子がいた。
「......」幽霊が黙っているのでムッとして「黙ってないで何か喋れよ」と言ったら「......う、恨めしや」と幽霊が言った。カチンと来て「恨めしやだかイタ飯屋だか知らねーけど、古いんだよ!」と怒ったら、幽霊はショックだったのかスーッと消えた。
次の日は幽霊の方が主導権を握ろうと、照明を着けたり消したり、窓ガラスをカタカタと鳴らした。だがまた酔っていたオレは怒鳴った。
「着けたり消したりしたら、電気代が高くなるじゃねーか!もし窓ガラス割ったら弁償しろよ!」
幽霊はショックだったのかスーッと消えた。
次の日は休肝日でシラフだったが、カーテンを開けたら上半身だけの女子がいて、「ぎゃああああ!」と叫んでしまった。幽霊はそれもショックだったのか、スーッと消えた。
3日連続で幽霊にショックを与えてしまって何か可哀想になって、仕事の帰りに100均でグラスを買った。発泡酒を開けてそのグラスに2センチ程注いで窓際に。お先に酔わせて貰って、幽霊が現れたから「何歳で死んだんだ?」と聞いたら返事が「......17」だった。未成年じゃねーかとグラスを下げようとしたが、「そこには何年いるんだ?」と聞いたら返事が「......10年」だったからグラスを戻した。
オレは知らなかった。酔っ払った幽霊が、あんなにお喋りで面倒臭いヤツになるなんて。
彼女の名前が山崎加菜恵で、両親がとても厳しかった事。高校1年の時に仲が良かった男子がいて、女子グループのボス生徒がその男子を好きだった事。そのせいでイジメの対象となり、成績が落ちた事。両親は成績の事で怒るから相談出来なかった事。そして練炭自殺をしたら、あの世に行かせて貰えなくなった事。実家が更地になってアパートに変わった事を語った。
それも涙声になったりゲラゲラ笑い出したり怒り出したり、興奮すると照明を着けたり消したりするから、その度に「電気代が~!」となった。
10年間誰とも喋れなかった鬱憤が晴れたのか、満足した幽霊は「ありがとう」の言葉を残してスーッと消えた。
ああ、きっと彼女は成仏したんだろうなと思った。
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