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すらっとした彼女が息つくヒマなく駆けずり回っています。
「みんなと同じフロアで働いてるのに、わたしばっかり忙しすぎます!」
長身の男性とややずんぐりした男性を横目に、さっきからずっと文句を言っているのです。
「だからわたしばっかり、こんなにスリムになっちゃったんですっ」
ほとんど動かないずんぐりしたほうに、いやみっぽく言ってみます。
長身は反論しないずんぐりをちらりと窺うと、目の前をあわただしく過ぎる彼女を目で追いながらなだめます。
「きみの働きがないと僕らは立ちゆかない。いつもとても感謝してるよ」
彼女はキッと、長身を睨みます。
「わたしの仕事なんて忙しいばっかりで、ちょっとくらいミスってもどうってことない、そんな程度のものなんです」
長身とずんぐりは困ったふうに顔を見合わせます。
きりきりしている彼女に向かって、ずんぐりが重い口を開きました。
「ボクはほんのちょっとのズレも許されない、そういう役目を負っている。
……きみからすれば、怠慢にしか見えないかもしれないけど」
彼女の走る音だけが響きます。
唇を引き結んだずんぐりを見て、思わず長身が口を挟みました。
「きみ、気づいているかい? 彼がいつも僕らを下支え、僕らの働きを見守ってくれていること。
なにより、彼が正確な方向を示してくれないと僕らの存在価値なんて、ないに等しい。
彼のしょった責任の重さを、きみは考えたこと、あるかい?」
「……」
彼女は、さっきまで文句を言い続けたことが急に恥ずかしくなりました。
だって彼女は、四六時中見てきたから。
ずんぐりが、じっくり腰を据えて仕事に取り組んでいる姿を。
長身が、自分とずんぐりの調整役としてきちんと立ち回っている姿を。
自分ばっかり仕事をさせられていると不公平に思っていましたが、そんなこと、全然なかったのです。
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