スタートライン

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スタートライン

 川沿いの桜並木が風に揺れる。  ひらひらと可憐に舞い落ちる花弁は地面を埋めつくし、淡いピンクのカーペットを作っている。  新しい季節の訪れは、この国では花が教えてくれる。けれど、そんなことに気を向けていられないぐらい、僕は自分自身のことでいっぱいいっぱいだった。  大学に通い始めて、もう三年が経った。  そして今日から残された最後の一年が始まる。    もうほとんど単位は取り終わっているから、通うのは週に二日だけ。でも卒論は必ず書かないといけないし、就活が終わらないうちはキャリアセンターに通いつめている人もいる。  僕には就活は必要ない。  その代わり、本格的に歌とダンスのレッスンが始まって毎日が一瞬で過ぎ去っていく。  歌うことに関しては人よりも褒められる機会があったけれど、やっぱりプロの世界は厳しい。それに加えて未経験のダンスも練習しないといけないのだから、精神的にもきつい日々が続いた。  「紡、休憩する?」  「もう一回やらせて」  律に甘えてばかりはいられない。辞めるという選択肢は存在しなかった。律の隣にいられるなら、なんだってする。そう決めたから。  国民的アイドルと一般人だった僕ら。積み上げてきた歴が違うのだから、レベルの差は桁違い。そんなの、事務所と契約を交わすときに誰もが理解していた。
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