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それは仕事の帰り道での話
あまり聞いたことのない唸り声のような鳴き声が聞こえて振り向いたら、それはそこにいた。
「すずめ?」
思わず口にした私に応えるように、固いアスファルトの凸凹の上でバサッと雀が羽を上下させた。はたしてそれが『上下』という言葉であっているのか私にはわからないけど、ただ、そう見えた。
よっぽど衰弱しているのか、近づいても動かない雀。
でも、ぶっちゃけ、私は鳥が嫌いだ。
糞をしてベランダを汚しやがったから。
もうその問題は格安の文明の利器たちのおかげで解けたし最早今となっては過去だ。でもだからといって目の前の鳥を拾って家に持ち帰って助けようという気分には到底なれなかった。だけどその時は何か一つでもいいことをして気持ちだけでも軽くしたいという意味のない欲求が私の中で渦巻いていた。
辺りを見回すと小さな赤い粒が実っている自然の木の実が目に留まった。そこでふと、祖母の言葉を思い出した。
『これをチュンチュンたちが食べに来るんやで』
記憶の中の祖母に『それ本当に?』と幼い私が問いかけるのを聞きながら私は目の前のそれを何となくひとつかみ握り、ぶちっ、とむしり取った。柔らかいのかと思ったけど、そこそこの固さをもったそれは私の手の中で潰れることなくつるっとした綺麗な丸を保っているままだった。脳内で幼い私が『そのままあげてみたいな』と言ったどうでもいい小っちゃい願望に従って、私は取った分だけ雀の前に転がした。そして、もう殆ど動いていない雀の足がこっちに向かって剥き出しになっているのを見て、触れそうだと思った私は何を思ったか、自分のシャツから出ている白い糸くずをひっつかんで千切り、雀の足に軽く括りつけた。
「また会えたら死なないでいてやるよ」
その言葉を残して、立ち上がった私は元々の目的地である家に向かった。
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