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やがて、美香代の進路相談の日がやってきた。美香代はこの日を今か今かと心待ちにしていたのだった。なんと、美香代は岳登に恋をしてしまったのである。それ故に岳登と二人きりになれるこの場をずっと待っていたのである。
美香代は優しくて穏やかな岳登の笑顔に惹かれていった。友人の女子達も岳登に対して親しみやすく心安くしていたのだが、美香代だけは本気で恋をし、好きになっていたのだった。
美香代は岳登と話をするために授業中に質問を積極的に行い、ワザとチラチラと目を合わせてアピールを行ったり、授業終了後も適当に質問をでっち上げて話をする機会を作るのであった。
美香代であるが「あーし、名前が古風で嫌いなんだけどー」と岳登に話をしたことがあった。すると、学徒は「僕はこの名前、美しくて好きだ」と窘めた。美香代は自分のことが好きだと言われたようで胸が一気に高鳴った。そして、岳登は「美香代」と言う名前が「平安時代の婚姻の儀に使われた餅の名前」だと言うことを教えた上で「親御さんは君が素晴らしい男の人と幸せになって欲しいと言う願いを込めて『美香代』と付けてくれたんだね」と褒めた。
美香代が自分の名前を古風で嫌いだと言ったのは本当のこと。昔からずっと自分の名前が嫌いであった。だが、岳登に名前の意味を教えられて窘められたことでやっと自分の名前を好きになることが出来たのである。
美香代の進路相談であるが、美香代に「進路希望」が何もなかったために岳登が困惑するものだった。志望校の欄が第一希望第二希望第三希望が全て白紙。ならば就職希望かと尋ねてみても特に行きたい場所もないと言う。
「千代森さん? 将来何がしたいとかある?」
「特に無いです。今日が楽しければいいかなって。友達と遊んで、その遊ぶためのお金をバイトで稼いでって感じかな?」
享楽的な考えの子だな…… 岳登は心の中で苦笑いを浮かべてしまった。
岳登は勉強勉強の毎日で「この手のギャル」との接点は皆無。困惑することしか出来なかった。
ただ、そのような生き方をする子を羨ましいと思い憧れることもあった。
「えっと、君の学力だと……」
美香代の学力は普段勉強をしないために壊滅的なものであった。普段の授業も教師の板書きをノートに書き写しはするものの、覚える気は皆無。テスト前でもテスト勉強を一切しないために点数はクラスの平均点を下回るもの。
岳登は失礼ながらに「このままアルバイト先でフリーターを続ける」もしくは「定員割れを起こして名前を書けば入れるようなBF(Border Free、偏差値計測不可)大学への進学」を勧めるしかないと考えていた。
しかし、これを口に出すことは憚れられる。さすがにこれは美香代に対して失礼であると口籠ってしまったのだ。
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