ため息と流し目

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「きれい」 「エミリーにあげるよ」 「いいの?」 「いいよ。また作ればいいし」 「ヤマトくんがつくったの?」 「うん。今度はもっと透明になるように作る。上手くできたらそれもエミリーにあげるね。あと、これ、毒だから、舐めちゃ駄目だからね」 「どく!」  こんな綺麗なもの、舐めたりしたらもったいないよ。思わずくすりと笑ってしまった。  その後も大和くんは私が寝込むたびにお見舞いに来てくれた。ペットボトルと懐中電灯で作る虹、鏡の反射を利用した万華鏡、天井に星を映し出すプラネタリウム。大和くんはいつも、素敵な楽しみを提供してくれて、憂鬱な気分なんて吹き飛んでしまうの。  大和くんは約束を守る子だから、半年ほどして本当にもう一度硫酸銅の結晶をくれた。今度のものは透明度が高くて、形も整っていて、宝石みたい。  硫酸銅の結晶は作り始めの仕掛けがとても大変で、できあがるまでに数か月かかる。そのことを、私は知らなかった。大和くんはそんな努力の成果を、いつも何も言わずに、惜しげもなく差し出してくれる。  最初にもらった半透明の青い結晶は、大和くんが初めて綺麗に成功させたもので、とても大切にしていたとお姉さんに聞いた。後からもらったものと比べると少しいびつな形かもしれない。けれども、なんだか、懸命に試行錯誤しながら作った大和くんの姿と重なる気がして、とても愛おしく感じられた。
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