ため息と流し目

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 ◆◆◆  日本語が上達するにしたがって、少しずつ人間関係を構築できるようになった。私から気負いなく話し掛けることができるようになったし、相手も怯えたり気持ち悪がっているのではなく、話しあぐねていただけだったことがわかって、とてもほっとした。  心配事がなくなって、余裕ができたからだろう。私は恋をした。  相手は大和くんのお兄さん。五つ年上で、背が高くがっしりした体躯、精悍な顔立ちなのに表情は優しくて、鷹揚な人柄がずいぶん大人に見えた。あまり接点がなかったから、ミステリアスなイメージが却って興味をそそったのかもしれない。  私の十六歳の誕生日、大和くんは北村家を代表してプレゼントを持ってきてくれた。  お兄さんからは、かえるが親友にお手紙を書いてかたつむりに届けてもらうという内容の絵本。お姉さんからは、ほんのりスパイスの利いたシフォンケーキ。大和くんからは、繊細なレースが美しいアンティークのリボン。 「綺麗……」 「エミリーの髪に似合うと思って。姉さんに相談して、一緒に選んでもらったんだ」  今までは誕生日にも実験の成果を贈られてきたから、珍しいと思った。思わず見入ってしまう。角度によって色が変わって見えて、とても素敵。 「エミリーは、兄さんのことが好きなの?」 「ええっ?」  唐突に切り出されたから、思わず大きい声で訊ね返してしまった。 「兄さんの話題が出た時や直接会った時、いつもすごくもじもじしてるし、顔も赤いから」  大和くんは観察が得意。私の気持ちなんかお見通しだった。なんだか恥ずかしい。 「僕はエミリーが大好きだよ。兄さんと上手くいかなかったとしても、エミリーには僕がいるから大丈夫だよ!」  大和くんは私を元気づけようと、笑顔でそう言ってくれる。大和くんは本当に優しい。もし振られても、私には慰めてくれる大和くんがいる。そう思うと、少し気が楽になった。とはいえ、告白する勇気なんか持てなかったけれど。
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