起点

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渡英すると、観光客でごった返す有名博物館は避け、マイナーな文化施設でデートした。そっと手を繋ぎ、物静かなキスをする。 初体験は、アリスの家の屋根裏部屋。 彼女が好きな民族模様のラグの上、手探りで行った。 セックスという未知の出来事に対する期待は、適度に満たされた。 それを深掘りするより、僕達には互いに熱中するものが有った。僕は日本の建築様式に、彼女はエスニック全般に関心を持っていた。 好きなことを生きる糧にしたい僕らは、一生懸命勉強した。 彼女はキュレーター、僕は建築士を目指す。 僕の受験は、日本の大学にした。 そこに、指導を受けたい人がいた。三ツ橋敬三、そらの父親だ。 大学三年、僕は念願の三ツ橋ゼミに入る。 愛妻家の先生の机には家族写真があり、学生達は皆そらの顔を知っていた。僕もその一人。直接会ってないのに、何となく気になる女性。 母が日本に住み始めた当初、よくボヤいていた。『大和撫子になるのは難しい』と。 心配した僕は尋ねた。 『ヤマトナデシコって?』 そして後日そらに会った時、母が教えてくれた意味にピッタリの女性だと思った。
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