幼馴染へアピール

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幼馴染へアピール

 朝、目覚まし時計がジリジリ鳴って、止めた。  スヌーズ機能がついていて、すぐにまた鳴った。  すこし二度寝してしまった。  体を起こすと、熟睡できなかった。  頭がぼーとする。  ベッド近くのカーテンを開けると外はモヤがかかっていて白かった。  今日の天気は曇り空だった。    紬の家はカフェを経営していて、2階が居住スペースが紬と拓人の部屋、寝室の3部屋、1階はカフェスペースと休憩室がリビング兼用となっていた。 「おはよ~。」  パジャマ姿のまま、冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップ1杯飲み干した。 「おはよ。紬、今朝は7時のバスで行くの?」  朝ごはんとお弁当の準備をするくるみが聞く。 「うん。そのつもり。あれ?拓人はもう出たの?」 「そうだね。さっき、スクールバス来てたかな。」 「あいつは…早く起きるなら私を起こせばいいのに! 可愛く無くなってきたね。お年頃かな?」  小学6年生の拓人は紬より早い時間に家を出て、近くまで送迎してくれる送迎バスに乗って行った。  何便もあるバスで、一番早いバスに乗っている。  小さい頃は可愛くて、起こしに来る優しさを持っていたが、成長と共に姉を構わなくなった。 「ほら、朝ごはんのおにぎり食べて、あなたも行く準備しなさい!」  くるみはお弁当を手渡した。  お皿には朝ごはんの焼きおにぎりがあった。 「はーい。お弁当、いつもありがとうございます。」  紬は2階に駆け上がり、制服に着替えて、ヘアスタイルを整えながら、焼きおにぎりをかぶりつく。  忙しない様子だった。  起床時刻がギリギリだったため  だった。 「いってきまーす。」  慌ただしく、階段を駆け降りて 「いってらっしゃい。」    遼平はいつもお店の出入り口付近からホウキで掃除をしてる間にお見送りする。  その後ろ姿をあと何回見られるのかと目に焼き付けながら見守った。  家の近くのバス停まで急ぐ。  スマホを見ている間に、バスが近づいた。ギリギリだった。  バスの扉が開くと奥の方に輝久が満員の中立って待っていた。隣に少しスペースがあった。紬は中へ定期券を出して、入っていく。  つかまれる鉄の棒があって安心した。    ワイヤレスイヤホンをしていた輝久は片方外した。 「おはよう。今朝は寝坊したん?」  いつも通りの輝久だった。  昨日は電話で怒っていた雰囲気だったため、安堵した。 「おはよ。なんで?」  頭をさらっと撫でられた。 「寝癖…直ってないよ。」 「うわ…ほんと?」  紬はバックから小さなコンパクトミラーを取り出した。  ついでに前髪とメガネの位置を整えた。 「その寝癖は水つけないと直らないね。紬はあわてんぼだな。」 「ヘアアイロンしてきたのに、後ろはチェックしてなかった。学校着いたら、直すから、気にしないで。それより!」  バスが右折したと同時に車内が揺れた。輝久の隣で揺さぶって、体がぶつかった。 「大丈夫か?」  腕を掴まれ、体制を整えた。 「あ、ありがとう。」 「バス、揺れるからしっかり捕まっておけって。」  手を引っ張られて、捕まる場所を誘った。 「だからさ、私、デートすることになって…。」 「え?元々デートだったんじゃないの?日曜日。わざわざ2回も言うの?」 「いや、あの。そのー、いや、楽しみだなあと思って…輝久に自慢したくてさ。」 「あ、そう。それは良かったね。」  少し機嫌が悪そうだった。 「そういやぁさ、友実子ちゃんの高校、調べたら、バレー部無いみたいなんだよね。スポーツ少年みたいなサークルでも入ってるのかな? ねえ?紬。」  あまり聞かれたく無い内容だった。   嘘のことを言っていたのに掘り下げられた。 「……そうかもしれないね。分からないけど、忙しいってライン来てたから。」 「友実子ちゃん、彼氏いるのかな~。」  そこまで細かく聞かれなくてホッとした紬。  そんなに由美子が好きなのかと思った。  ふと、不意うちに輝久は片方のワイヤレスイヤホンを紬の耳にはめた。  好きなアーティストの新譜曲だった。 「あ、これ、良いよね。私、好き。」 「だろ?」  バスの中では、普通の自分でいられた。  学校では根暗で小さな声でしか話せないし、誰とも用事がなければずっと無口。  輝久と過ごしてる時間が一番安心できて、自然でいられるのに…。    どうして、こうなってしまうんだろう。  自分でも不思議で仕方なかった。 ーーー  教室に着いていつもの自分にスイッチが入る。  まるで、黒子のカバーをしたように下を向いて授業の時だけ板書するために必死に上向いて、顔を上げている。  1時限の世界史が終わって、休み時間、教科書を机にしまっていると、一番前に座っていた紬の目の前の教壇に腰掛けた女子がいた。頬杖をついている。 「谷口さーん? 起きてる?」 「え…。」  まさか、自分に話しかけてくるとは思わなくて驚く。相手はクラスのマドンナ的存在の森本美嘉だった。 「起きてるよね。いつも小さい声で、話すから寝てるのかと思って…今日の昼休み、聞きたいことあるんだけどいいかな? ついでに一緒にお弁当食べよ?」  何となく断りづらい雰囲気で、紬は黙って頷いた。 「OKってことだよね。んじゃ、昼休みに。」  何を企んでいるのか、なんかされるのか妄想が膨らんで涙が出そうだった。  誰からも話しかけられたことが ない紬は恐ろしくて不安になった。 「えー、なんで、あの紬と弁当食べるの?私たちと食べようよー。」 「今日だけだから。お願い。明日は一緒に食べるから。」  森本美嘉の友達の取り巻き達が寄ってたかって近づいていく。  紬と食べるのは今日だけらしい。  少し安心した紬。ため息をついた。  次の授業は時間割を見ると国語だ。  教科書とノート、筆箱を机に綺麗に準備する。 *** お昼休み  森本美嘉に誘われて、学校の中庭のベンチに座った。聞いてもいない庄司輝久と里中隆介も一緒だった。  3人ともお弁当やサンドイッチなど持ってきていた。 「なあ、美嘉。なんで、今日はこの人も一緒なんだよ。てか、輝久もいるし。」 「まあまあ、たまには仲良く4人で食べるのもいいでしょう。この子はこの人じゃなくて谷口紬ちゃん。隆ちゃん覚えなさい。輝久くんもありがとうね。」 「あ、いや、別に構わないけど…。」 「……。」  いつもぼっち飯の紬は何だか複雑な気分。大人数は気を使って逆に食べにくい。喉をごくんと飲み込んだ。メガネをかけ直す。 「今日は紬ちゃんに聞きたいことがあって、私1人じゃ答えにくいって思って、輝久くんも誘ったの。紬ちゃん、輝久と仲良いよね。私、見たことあったからさ。」 「うん。」 「美嘉ちゃん、紬は、心開くまでかなり時間かかるから話さないと思うよ?」 「いいの。んじゃ、輝久くんが聞いてほしいけど、紬ちゃんは3年の大越陸斗先輩と付き合ってるの?!」  紬は飲んでいたりんごの紙パックジュースを吹いた。  小さな虹がかかるくらい霧吹きになっていた。  美嘉はその反応を見て 「え、それって、イエスってことなの?!」  紬は持っていたタオルやハンカチで周りを拭いた。間違って美嘉の顔にかかったかなとぺこぺこごめんなさいしながら、顔を拭いた。 美嘉は紬の腕を掴んだ。 青スジを立てて睨んできた。 「紬ちゃん!? 本当のこと教えてもらえるかな?」  大量の冷や汗がとまらない紬。  輝久は、どうすればいいか分からなかった。  隆介は蚊帳の外で落ち込んでいた。  どうして美嘉に迫られなければいけないか謎で仕方なかった。
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