わたしのこと憶えてないよね?

1/17
132人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

わたしのこと憶えてないよね?

「はじめまして。本日よりお世話になります新実(にいみ)と申します。営業は経験が少なく、ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、頑張りますのでご指導のほどよろしくお願いいたします」  彼が目の前に現れた瞬間、夢ならばどれほどよかったでしょうと頭の中で米津玄師が歌い始めた。  彼とは初対面ではなかった。彼がわたしに気づいているのかどうかはわからない。お互い、上司も同席しているビジネスシーンだ。わたしのこと憶えてる? なんて居酒屋で逆ナンするような軽薄な会話はできない。  熱心にエッチなビデオを観ているときに、いきなり母親が部屋に入ってきた少年ぐらいの気まずさはあるかもしれない。バレたのか、バレずに済んだのか気が気ではない。  わたしの気まずさなど構うことなく、挨拶は進む。  名刺をもらって初めてフルネームを知った。  新実怜哉(れいや)――本来なら知ってはいけないはずの男の名前。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!