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「よっ、英雄、また一緒だね」
八重歯をみせ屈託なく笑う絵梨花に、顔をそらしながら「あたりまえだろ」とこたえる。
過疎化の進んだ山奥の村では子供が少なく、小学一年生、いや、乳幼児から中学三年生まで同じ教室で学ぶことになる。
絵梨花は村の中で唯一同い年の中学三年生、ゆえに隣同士の席で六年──いやそれ以上のつきあいだ。
「やっぱりふもとの男子高にいくの?」
「うん、林業科にね。けっきょくさ、僕のが継がないと他にいないもん」
「代々大地主の家って大変ねぇ」
「絵梨花はどうするの?」
「んー、わかんない。ウチはそういうしがらみ無いからねー。とりあえず普通科の高校にするつもりだけど、ふもとの高校にするかどうかは決めてない」
「そっか」
村でひとりだけの先生がやってきたので、ここで話を終えて授業がはじまる。
山名先生はまだ二十代と若く子供たちに好かれている。
こんな過疎の村で教えてくれるのがもったいないと村の者は言うが、反面ありがたくとも思っている。
「彼女とかいないのかねぇ、若い身体もてあましているだろうからアンタ相手してやんなよ」
なんて卑猥な嘲笑いとともにオバさん連中が言ってるのを思い出すと、イヤらしいなと顔をしかめる。
※ ※ ※ ※ ※
絵梨花と僕はともに合格した。僕は予定通りふもとの男子高へ、絵梨花は山名先生の勧めでもある都会の高校へと進学した。
3月、在校生である村の子ども達に見送られて卒業する。月末からふたりとも寮生活に入ることになり村を出る。
「さすがにこれからは別々だな」
隣でうつむく絵梨花に秘めた想いはある。それを伝えるかどうか迷っている。
「うん。……あのね、英雄、あたしね……」
絵梨花が何か言いたそうにして口ごもらせる。ま、まさか絵梨花も?!
「……ううん、なんでもない」
そう言うと走り去っていき、絵梨花とはそれきりとなってしまった。
※ ※ ※ ※ ※
寮に入り男ばかりの寮生活を過ごして夏休みに帰省すると、衝撃のニュースが待っていた。
「え、絵梨花が失踪?! 山名先生と一緒に?!」
僕らが村を出たあと、先生は書き置きを残して出ていったそうだ。
そして絵梨花の両親には、彼女からの手紙が届き(村にはまだネットが通っていない)山名先生と交際していたこと、ふたりで別の街に行く捜さないでと記してあったという。
卒業式のとき、言いよどんだのはこの事だったのか……。
幼なじみへの淡い恋心は最悪終わりかたをし、傷心で過ごした高一の夏休みだった。
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