最終話

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最終話

 目を開けると、穴空きの天井が見えた。汚れたシーツは心もとなく、今日も腐臭が風と共に漂ってくる。  こんな生活を初めて、どのくらいになるだろう。僕が僕を自覚したとき、頭の中は空っぽだった。  死体を退け、とにかくその場から逃げて人生は始まった。住処を確保するのには随分苦労したものだ。この国は特に、他人に冷たいから。  それでも生きているのは、目的があるからだ。  今日も見た、ある夢を敢えて掘り返す。もう何百回と見たせいで、起きていても明瞭に思い返せた。  見知らぬ誰かの背中が遠ざかる。僕はただ、愛しさを胸に追いかける。なのに追い付けない。どれだけ懸命になろうと距離は大きくなる。それだけの夢だ。  僕は誰かを想っている。何一つ思い出せないのに、強い“愛情”だけが胸の中にあるのだ。いつか追い付いて顔が見たい。そう心の底から願っている。  それこそが、この碌でもない人生の目的だ。
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