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「使えないな、ナチ」  聞こえてきた声で我に帰る。気付けば僕は地面に伏せていた。状況が掴めない。しかし、失敗だけは本能的に把握した。目先にあった踵が返り、靴が背を見せる。そのまま僕から遠ざかりはじめた。 「ま、待って下さいキリさん! お願い、待って……!」  追いかけたいのに、体が命令を聞かない。まるで金縛りにあっているかのように――。    暗がりに広がる木製の天井。柔らかなシーツ。充満する甘い香り。見慣れた世界に戻され、簡単に夢だと理解した。横からの視線を察知し、目を三日月型にして対応する。やや遠く、隣接するベッドからキリが僕を凝視していた。 「すみません、起こしました?」 「ああ、悪夢でも見てたか」 「昔の夢です、すみません」 「……昔か、ナチも随分成長したよな。私の目利きは悪くなかったってことだ」  出会いから約一年が経った。仕事仲間としての信頼は、推し量らずとも確証できる。キリの口調、表情、仕事の振り方――この辺りを当初と比較すれば容易だった。ただ、親密になった分、心の距離を勘違いしそうになるが。 「ありがとうございます。結局、銃は使えなかったですけどね……」 「得手不得手はあるだろ。予定より早いが仕度するか。今日の現場は西ビルだったな」    最近は、一件を二人で消化する機会も増えた。組織単位の案件が連発しており、解体した組の数は知れない。  未熟な僕の目から見ても、キリは手練れだった。ライフルもナイフも第三の腕とし、淡々と職務を遂行する。  キリのテクニックに追い付けたなら、彼はもっと僕を必要としてくれるだろうか。欠けては機能しない一部として、僕を求めてくれるだろうか。お前がいなきゃ駄目だよと、心寄り添わせてくれるだろうか。なんて途方もない未来を想像してしまった。  想像が現実になるか、知るには実行しかない。その為にはただ、殺す数を重ねるだけだ。人も心も。  そうだ、失敗なんて一度だって出来るものか――。 「ナチ、右!」  反応した時には遅かった。男の放った銃弾が、僕の腹へ吸いついてきた。
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