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「ごめんなさい、本当にごめんなさい……!」 「一旦落ち着け!」  謝罪の流出が止まらない。聞こえているのに、キリの声がすり抜けてゆく。  現在地は家だ。白かったベッドの上にいる。あの後、キリの超人的な反射能力により、何とか現場から脱出できた。しかし、焼けついたイレギュラーばかりが胸を抉り続けている。穴の空いた腹より鋭く痛んだ。 「傷は。見せてみろ」  強制的に服を剥がされ、肌が露出する。衣服で擦れた血が、広がって乾きこびりついていた。しかし、傷の具合など今は関係ない。 「急所は外れたみたいだな。弾も貫通してるし血も止まってる」 「ごめんなさい、ごめんなさい。僕、迷惑かけてごめんなさい」 「手当てするから横になれ」  肩を突かれ頭が落ちる。逆光とマスクでキリの顔が黒塗りされ、感情が掴めず胸が騒いだ。向いた背中が遠ざかる。  真新しい悪夢が重なり、引き留めたくなった。だが、現実は夢より自由になれないものだ。呆気なく、声は空に霞んだ。    日中に目を覚ますのは、いつぶりだろう。時差で傷が痛みを発し、改めて失敗を突きつけてきた。表情を伺いたくて、キリを探してしまう。だが、視野の中には見付けられなかった。  涙が目尻に現れる。我慢を言い渡す前に、呆気なく零れ落ちた。一つ脱してしまえば、後に続くのは早い。もう、制御など効かなかった。 「落ち込みすぎだ」  低い声が耳に響く。一瞬で涙が止まり、恐怖が溢れた。体も緊張を全身で訴えている。 「ま、死ななくて良かったじゃねぇか」  キリの体重でベッドが少し沈んだ。眼前の景色が後頭部に遮られる。表情が読めないと思いきや、横顔に、正面顔にと切り替わった。  視線が合致するや否や、少しずつ距離が迫ってくる。そのまま、軽い口づけが落ちた。懸念と間反対の状況に、唖然としてしまう。 「……よく頑張ったな」  だが、悪夢は自然と弾け消えた。一時は止まった感情が、増大して溢れ出す。キリはただ、優しく頬を拭い続けてくれた。
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