第0章 プロローグ。

1/2
前へ
/26ページ
次へ

第0章 プロローグ。

時は、西暦2024年11月22日。 語呂合わせでは11《いい》22《ふうふ》の日と呼ばれているこの日。 場所は日本のどこかに存在しているとだけ記録されている雪原の郷では… 愛結「(まもる)さんは、 語呂合わせって知ってますか?」 雪原の郷で起きたある悲劇を2度と起こさない為に作られた誓いの儀式を終えたばかりの新婚夫婦が満面の笑みを浮かべながら会話していました。 ちなみに語呂合わせとは、 11《いい》月22《ふうふ》の日と言う風に覚えやすくする事を言います。 (まもる)「語呂合わせって事は、司は11月11日産まれって事か?」 しかし…   (きつね)(あやかし)であり 指輪の職人をしている鎮にとっては語呂合わせを理解するのは難しかったようで… 哲治(てつはる)「分かった、司はイチイチうるさいって言いたいんだろ?でも…それは語呂合わせではないと思うぞ?どちらかと言えばそれは暗号化に近いものではないのかな?」    鎮と愛結の向かい席で苦笑いを浮かべている職人全部にとって兄貴的存在の哲治(てつはる)が言葉足らずの鎮が言いたい事を代わりに説明しました。 哲治(てつはる)…鬼の(あやかし)で手先が器用な事もあり着物の職人として雪原の郷では人気者の分類に属しています。 すると… 鎮から喧嘩を売られる形となった司は 不満げに可愛らしい女性の姿が描かれた絵を見つめながら恨めしそうに皆への不満を口にしていました。 司「俺が紗愛(さえ)を偲んでいる時に突っ掛かってくるのは止めて貰えるかな?」 (つかさ)…モラハラ夫から理不尽に命を奪われた最愛の女性・紗愛(さえ)の事を今でも愛する靴職人で狼の(あやかし)。 雪原の郷で起きたある悲劇とは、 司と紗愛の間に起きてしまった事で、 これにより司の心にはまるで獣に引っ掻かれたような鋭利な傷が今でもくっきりと残っております。 哲治「鎮、司に喧嘩を売るのは、 止めたらどうだ?鎮には愛結がいるけれど司にはもう心の中しか紗愛がいないんだぞ?」   生きている人間が忘れない限り、 死んだ人間は生き続けるとは聞いた事がありますが…生きている人間にとって存在を近くに感じられないのは胸を締め付けるくらい辛くて痛い事です。 愛結「狐の(あやかし)って事は、 鎮さんって狐火とか使えるんですか?」 鎮の隣で天真爛漫な笑みを浮かべながら皆が困惑してしまいそうな質問を投げ掛けるのは… 哲治「愛結ちゃんってなかなか可愛らしい女性だよな。見ていると何だか微笑ましいカップルだよ…」 愛結(あゆ)…幸の薄い女性ではありましたが鎮と出逢った事で芯の強い女性となったものの少し天然で空気を読まない女性でもありました。 鎮「妖狐だから狐火は使えるよ? でも…狐火が使えなかったら… 妖狐ではいられないよ?」 愛結の発言に対してあきれつつも 愛しげな瞳で見つめる鎮を見つめながら切なげにしているのは… 司「…紗愛(さえ)…。」 (つかさ)…モラハラ夫と協議離婚をする為に異能で守られた隠れ里から出て自宅に戻ったまま還らぬ人となった最愛の人・紗愛(さえ)を忘れられないままでいる靴職人の司は… 司「紗愛が生きていたなら愛結と鎮が誓いの儀式をした事、誰よりも喜んでいたかもしれないなぁ…。」 今は亡き紗愛の戸籍謄本を抱きしめながら感慨深げに想いを馳せました。 長老・幻七(げんしち)…異能を操る職人達の隠れ里・雪原の郷で長きに渡り長老を務めているのだが見た目は若々しく1000年以上生きているようにはとても見えない見た目をしているのだが…本人は気にしているので… 見た目と歳の事は言わない方が無難。 幻七「紗愛さんの事は極めて残念だ。 モラハラ夫や彼氏から女性を守るためにこの隠れ里を作ったのに…」 だけど… 幻七や司の説得を聞かずに紗愛が隠れ里を飛び出し自宅に戻ったのは… 紗愛『協議離婚をする事で私達2人が前に進む事が出来たらそれが1番最良の手段だったから…』 モラハラ夫ではあったけれど1度は愛した人だから歩み寄ろうとした結果… 紗愛はその命を散らしてしまった…。 司「皆を平等に愛する紗愛らしい判断ではあったけれど…命を喪ってしまったらそれは間違いではないのかな?」 だけど… どんなに悔やんでも喪った命は… 還る事はありません。 司「…紗愛が悲しむから今だけは… 愛結と鎮が誓いの儀式をした事を 喜ばなければ…ね?」 幻七と司が切なげに微笑む先で… 愛結は鎮の顔を見つめていました。 愛結「鎮さん、大好き。」 鎮「俺も大好きだよ、愛結。」 誓いの儀式とは… 現代でいうところの結婚式〉です。 すると… 哲治「長老、あの時異能で取り寄せた愛結の戸籍謄本を出して下さい。」 鬼の(あやかし)である着物職人・哲治(てつはる)から声を掛けられた長老の幻七は自らの懐から愛結の戸籍謄本を取り出し2人に渡しました。 幻七「作業場の奥に儂が異能で作った聖なる(かまど)があるのでふたりで仲良く戸籍謄本を投げ込みなさい。そうすると…」 まだ話している途中ではありますが、 鎮と愛結は愛結の戸籍謄本を聖なる竈へと()べてしまいました。 幻七「まだ儂、話している途中なのに…若い者は行動が早すぎるのよ…」 ぶつぶつと文句を口にしている長老・幻七を宥めているのは… 哲治「長老、そこは大人の余裕で…」 哲治と司でしたが愛結と鎮は、 そんな事などはどこ吹く風で… 愛結「鎮さん、 これからもずっと一緒にいてね…」 鎮「当然だ、愛結を守る役目は誰にも渡さない。愛結の事は生涯俺が守り抜く…。」 幸せいっぱいな姿を最初から最後まで 皆に見せておりました。 哲治「幸せいっぱいなら何より…」 モラハラ夫に苦しめられた愛結ではありましたが優しくて不器用な最愛の人を見つける事が出来ました。 但し… これまでの道は平坦ではなく、 とても厳しく辛い道程でした。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加