sideB

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 彼に助けてもらってから3年後、モミジは老衰でその生涯を終えた。  モミジは家族全員の犬だったけれどもよく散歩に連れて行っていたのは私だったし、物心つく頃からずっと一緒だった。  悲しくて辛くて毎晩のように私は泣いた。心にぽっかりと穴が開いたような気持ちってこういうことなんだと思った。  何をしてもどこに行ってもモミジのことが頭から離れない。ちょうど高校に進学したばかりの頃だったけれどもウキウキよりも寂しい気持ちでいっぱいで、新学期そうそう私は黄昏れていた。  けれども悲しい気持ちは毎日をどうにかやり過ごしていくうちに少しずつ耐えられるものに変わっていく。  時間が経てば、つらい思いにとって代わって楽しい思い出がよみがえってくる。  そうして私はモミジを助けてくれた彼のことをもう一度思った。  どうしているのかな。会いたいな。彼女はいるのかな。優しいいい人だったからモテるのだろうな。大学は卒業したのかな。そのまま東京で就職してしまったのかな。  もう一度会いたいな。  そんな風に考えていたとき、ママの知り合いの人が、保護犬を引き取ってもらえないかといって連絡してきた。 「ミカが辛いなら断ろうと思うんだけど」  そうママは切り出した。新しい犬を飼うことに対して、これまで私は強固に拒否していたから。  パパが言った。 「保護犬って引き取り手がいなければ殺処分されてしまうんじゃないのか?」  亡くなったモミジと同じ犬種だという。迷ったけれど、私は受け入れることにした。  新しく来た子に私はケントという名前をつけた。  私が高3の秋のことで、ケントは生後7ヵ月の仔犬だった。  初めて会ったときから忘れたことのない彼の名前をつけたその子は、なんと彼と私の再会を本当に引き寄せてくれた。
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