sideA

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 ミカと俺がつきあい始めて1年を過ぎる頃から、ラブは何をするのもしんどそうになって、食も細くなった。  遠出はできなくなった。リードをつけて近所をゆっくり散歩するのがやっとだった。そのうちに歩けなくなって、寝たきりになった。  ラブの飼い主は俺だったけれども、そんなことは関係なく家族みんなで看病をした。俺が仕事に出ている昼間は家にいる母がラブを看てくれた。看護師の姉は仕事が不規則だったから、昼間に母と交代したり、夜に俺と交代したりしてくれた。  父だけはラブに懐かれていなかったから直接の看病はしていない。けれどもその代わりに家事全般と雑用を請け負った。  ミカも応援に駆けつけてくれた。町役場は5時きっかりに終わるから、車で直行してくれて、夜俺が帰宅するまでの時間を母や姉と代わってくれた。  いよいよ危ないってなったときに俺は有給を申請して2日続けて仕事を休んだ。けれどもその2日間をラブは苦しみながらも生き延びた。  翌日俺は後ろ髪をひかれる思いで出社した。その日の午前中にラブは天に召された。  しばらくは何も考えられず、何も手につかなかった。  虚脱状態で涙も出ない。  そのころミカはよくうちに来て、俺の傍にいてくれた。  末期のラブの看病を手伝ってくれたときも、ラブが死んだあと様子を見に来てくれていたときも、ミカはケントを連れて来なかった。だからしばらく俺はケントに会ってなかった。  ケントがどうしているのかふと気になって聞いた。  そうしたらミカは、ケントだったら大丈夫、と言ってふわりと笑った。 「ケントももう大分成犬(おとな)だからね。いい子でお留守番してるよ。ケントにはラブちゃんが亡くなったこと話したんだ。きっとケントはわかってると思う。今度お墓に連れて行ってやってもいいかな」 「そうだな。今度車で出かけようか?」 「ケンちゃん無理してない? 大丈夫?」  ミカは俺の手をぎゅっと握ってきた。そばにいてくれてありがとう。そう言いたかったけれども口に出しては言えなかった。自分で自分が大丈夫なのかもよくわからない。 「悲しいときは無理しなくていいからね」  彼女の言葉に無言で俺は頷いた。
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