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sideB
彼と私が最初に出会ったときの話をしようと思う。
あれは私が小学6年のときだった。当時飼っていたモミジの散歩を仰せつかった私は張り切って道を歩いていた。
モミジはおとなしい犬だったけど大型犬だったから、外に連れ出すときは細心の注意を払う。
街中には犬が苦手な人もいるから、万が一でも噛んだりしませんよということを示すために口輪をはめて外出した。
小型犬とすれ違うときは、怖がらせないように道の端によけて向こうが通り過ぎるのをじっと待つ。
モミジと私がひき逃げに遭ったのは、そんな風に注意深く散歩させていたときだった。
なぜか歩道を爆走してきたスクーターがモミジに激突したのだ。スクーターは派手に横転したけれども、運転手はそそくさとそれを起こしてそのまま逃走してしまった。
私はモミジの大きな体に守られて無傷だった。けれど脚を轢かれたモミジは怪我をした。
モミジはゴールデンレトリバーの成犬だったから私が抱き上げて運ぶには大きすぎる。その日は携帯を持って出ていなくて、だけど泣いているモミジを置き去りにして家にも帰れない。
口輪をはめたまま、うずくまって痛がって泣くモミジを前に、私は途方に暮れた。
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