sideB

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 モミジが回復してからクッキーの缶を手に、ママと一緒にケンちゃんの家を訪ねていった。  私は中学生になっていた。  彼に一目会えるかもしれないと思っていた私はウキウキしていた。  ところが出てきたのは彼のお姉さんで、彼が普段は家にいなくて、東京で大学に通っていることを教えてくれた。  2月と3月は授業がほとんどないから帰省中だったらしい。  ウキウキがしぼんでしょんぼりしてしまった私を、お姉さんはおうちで飼っているワンちゃんに会わせてくれた。  黒のラブラドールレトリバーで名前はラブ。ほんとは彼がラブの主人なのだけれど、住んでいるアパートがペット不可物件だから連れて行けないんだって。 「もしもウチのラブがバイクに轢かれたらと思ったら、人ごとじゃないよね。ミカちゃんちのモミジちゃん、怪我が治ってよかったね」  お姉さんはそう声を掛けてくれた。  お礼も渡してしまったし、彼には直接会えなかったから次に会う口実もつくれなかった。  私はそのあとも当てもなくモミジを散歩に連れて行ったりドッグランまで足を運んだり、検診のときには動物病院までついて行ったりして、もしかしたら帰省中の彼がラブを連れてるところにばったり再会できないかなんて考えていたけれども、そういうことは起こらなかった。
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