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リノリウムの廊下に合成ゴムのソールが噛みつき、独特の甲高い悲鳴を上げる。日本中で比べてみても、この音を最も発生させている高校生は、おそらく僕だろう。
対抗がいるとすれば、ナイフと封筒を手に猛然とこちらへ駆けてくる女子高生、楠原凛しかいない。
「待ちなさいっ! 往生際が悪い!」
「僕にとっては比喩でもなく、往生際だ」
曲がり角で他の生徒と衝突しそうになるのをすんでのところで避け、凛の死角に入った瞬間に腕時計を確認する。
「あと……5分か」
タイマー方式に切り替えてあるデジタルの数字は、無慈悲に鬼ごっこの継続を示す。
凛は僕を追い掛け回す以外は、品行方正な生徒だ。昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響けば、試合終了の笛を聞いたアスリートのように教室へ戻る。
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