正道

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 部下との不倫が、妻に知られてしまった。「いつか離婚するから」という言葉を真に受けた部下が、妻に直接連絡して一から十まで全てバラした。そのあと待っていたのは勿論――。  でも、まさか自分が、こんな形で道を踏み外すとは思ってもいなかった。  アクセルを限界まで踏みしめる。振動が伝わってくる足。加速していく車。目の前に迫るガードレール。激しい衝撃と全身の痛み。ジェットコースターに乗った時のような内臓が空中に浮かぶ感覚――。  自分の犯した過ちも、家族で過ごした幸せな時間も、鉛筆で塗り潰したように真っ黒な海に溶け込んで消えていく。満月が揺らめく淋し気な海の中、無数の手に口を塞がれているような苦しみを味わうのは私一人でいい。  トランクに乗せた妻と息子は、だ。
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