正道

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 湿気を帯びた空気。鳴りやまない蝉の声。海岸線に打ち寄せる波の音。  夏特融の音色や匂いを感じながら、妻と息子を乗せた車で伊豆の海岸線を走り続ける。毎夏旅行で訪れる、お決まりのドライブコース。  しばらくすると、いつもの分かれ道に差し掛かった。向かって左側は海岸行き、右側は旅館やホテルが集まった温泉街行き。普段は旅館に荷物を置いてから海岸へ向かうが、今日は迷わず左側へハンドルを切る。  思い返すと、私はこれまで道を間違えたことがない。運転においてはもちろんのこと、人生においても常に後悔のない、正しい選択をしてきたと自負している。  部活動に力を注いでいた中学時代から一変、高校時代は勉学に精を出し、両親に誇れる大学へ進学できた。大学時代は勉強以外にも、海外留学やインターンシップ、ボランティア活動にも力を注いだ。熱意に溢れた学生だと評価され、就職活動も難なく内定をもらい、今も勤めている大手企業に就職できた。就職後も同期の中で一番成績優秀だと評価され、出世も早く最年少で部長になった。妻とは三年の交際を経て結婚して、その翌年に息子が生まれた。この上なく幸せで、ともいえる人生の道を歩んでいる。  曲がりくねった上り道が続いた後、真っすぐ伸びる道に差し掛かった。アクセルをグッと力いっぱい踏み込むと、車から鈍い唸り声のような音が鳴った。 「――私は、どこで道を間違ってしまったんだろう」
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