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「秋人くんは、クインちゃんが好きなの?」
私が恐る恐る聞くと、秋人くんは少し顔を赤くしてうなずいた。
「うん。ほらクインちゃんって華やかで可愛いし個性的だし、つい目で追っちゃうんだよね」
「そっかあ」
クインちゃんが男子にすごく人気だっていうのは知ってたけど、まさか秋人くんまでクインちゃんが好きだなんて。
落ちこむ私に、秋人くんは慌ててフォローの言葉をかけた。
「あ、でも茉白ちゃんも嫌いじゃないよ。ただ……どっちかと言うと普通というか、あんまり印象がないだけで」
「そ、そっか」
私はショックを受けながらも、精一杯笑顔を作った。
「ごめんね、なんか、気を遣わせちゃって。私なら全然気にしてないから大丈夫。それじゃ」
慌ててその場から走り去る。
泣くのは我慢したつもりだった。
だけど、秋人くんの顔が見えなくなったとたん、目からポロリと涙がこぼれ落ちた。
あーあ、失恋しちゃった。
「はあ……」
涙をふいて、空を見上げる。
ズキンと心臓が痛んだ。
秋人くんに好きな人がいた事もショックだったけど、胸が痛いのはそれだけじゃない。
「普通、かあ」
私は顔も普通。成績も、運動神経も普通。
クインちゃんみたいな華やかな個性が何もない。
まるで私の名前みたいに、真っ白で何もない。
それを思い知らされて、ショックだった。
せっかく今日は、私の十二歳の誕生日だって言うのに。
――だけど、私に起こった最悪の出来事は、これだけじゃなかったんだ。
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