1.最悪の誕生日

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「秋人くんは、クインちゃんが好きなの?」  私が恐る恐る聞くと、秋人くんは少し顔を赤くしてうなずいた。 「うん。ほらクインちゃんって華やかで可愛いし個性的だし、つい目で追っちゃうんだよね」 「そっかあ」  クインちゃんが男子にすごく人気だっていうのは知ってたけど、まさか秋人くんまでクインちゃんが好きだなんて。  落ちこむ私に、秋人くんは慌ててフォローの言葉をかけた。 「あ、でも茉白ちゃんも嫌いじゃないよ。ただ……どっちかと言うと普通というか、あんまり印象がないだけで」 「そ、そっか」  私はショックを受けながらも、精一杯笑顔を作った。 「ごめんね、なんか、気を遣わせちゃって。私なら全然気にしてないから大丈夫。それじゃ」    慌ててその場から走り去る。  泣くのは我慢したつもりだった。  だけど、秋人くんの顔が見えなくなったとたん、目からポロリと涙がこぼれ落ちた。  あーあ、失恋しちゃった。 「はあ……」    涙をふいて、空を見上げる。  ズキンと心臓が痛んだ。  秋人くんに好きな人がいた事もショックだったけど、胸が痛いのはそれだけじゃない。 「普通、かあ」  私は顔も普通。成績も、運動神経も普通。  クインちゃんみたいな華やかな個性が何もない。  まるで私の名前みたいに、真っ白で何もない。  それを思い知らされて、ショックだった。  せっかく今日は、私の十二歳の誕生日だって言うのに。  ――だけど、私に起こった最悪の出来事は、これだけじゃなかったんだ。
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