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第1話 サンタクロースへの手紙
土曜日。
私はカレンダー通りに休める仕事をしていて、家で電話を待っていた。
でも約束がある訳ではないし、そもそも電話待ちをしている相手は、家族でもなければ友達でも彼氏でもない、全く見ず知らずの赤の他人だ。
そんな相手からの電話を待っている理由は、ただ一つ。
私が副業で、『愚痴聞き屋』をしているからだ。
とは言っても、一応小さな広告関係の会社で正社員をしているし、生活が成り立たない程お金に困っている訳ではない。
でも私には特に趣味らしい趣味がないし、友達も多い方ではないから、休みの日にだらだらと過ごすことが多くて、全然時間を有効に使うことができていなかった。
どうせならこの無駄な時間を少しでも有意義なものにしようと、友達に誘われて軽い気持ちで愚痴聞き屋を始めてから数ヶ月。
とあるアプリに登録して、お客さんからの電話に出て話を聞くだけだから、こういう仕事が初めての私でもどうにかこなせていた。
毎月、ほんの数千円程度の稼ぎでも、ないよりはずっといい。
見ず知らずの人に話を聞いてもらいたい人がそんなにいるなんて意外だったけど、一人暮らしだと家に帰っても話し相手はいないし、おしゃべりな人にとってはお金を払ってでも解消したいストレスなのかも知れない。
私はそんなことを考えながら、マンションの狭い1Kの部屋で、ひたすら電話を待っていた。
でも来るか来ないかわからない電話をただ待つのは退屈過ぎるから、赤いチェックの着る毛布に包まって、冷え性対策のストレッチをしている最中だ。
私は暖房を付けてセーターを着た上に毛布に包まることで、やっと寒さを感じずにいられるくらいの冷え性だから、もうすぐ十二月になろうかというこの時期は、ショウガ湯やストレッチといった冷え性対策が欠かせなかった。
今やっているストレッチは、立ち上がったまま爪先立ちを繰り返すという、ごく簡単なものだ。
足先の血流を良くする上に、ふくらはぎを引き締める効果があるらしい。
私はズボラだから、冷え性が良くなる上に美容に良くても、なかなか毎日は続けられないけど、時々気が向いた時にするだけでもやらないよりはマシだろう。
ストレッチを続ける分厚い靴下に包まれた私の足を、茶トラのオス猫が尻尾で軽く擽りながら、マイペースに横切って行った。
名前は『にゃん三郎』。
名札付きの青い首輪がトレードマークの、推定四歳だ。
お父さんが猫アレルギーだったから、実家では猫を飼えなかったけど、私はずっと猫を飼いたいと思っていて、就職して一人暮らしを始めたのを機に、にゃん三郎を飼い始めた。
ここはお世辞にも広い部屋ではないけど、私はマメに掃除をするタイプじゃない代わりに、散らかしもしないから、ネコ用トイレや給水機を置く場所に困るようなことはなかった。
服やバッグは作り付けのクローゼットに入り切る分しか持っていないし、大きな家具はチェストに炬燵機能付きのテーブル、ロフトベッド、ソファだけ。
猫一匹くらいなら、ちゃんと迎え入れることができた。
念願の猫との共同生活ができるとあって、テンションMAXでにゃん三郎を迎えたのに、最初はなかなか触らせてくれなくて寂しかったのも、今となってはいい思い出だ。
かれこれ二年半くらい一緒に暮らしているから、今ではすっかり懐いてくれて、触っても全然逃げなくなった。
にゃん三郎がソファ脇の階段を上がってロフトベッドに陣取った丁度その時、テーブルの上にメモ帳と一緒に置きっ放しにしていたスマートフォンに、アプリからの通知が入る。
お客さんだ。
私はソファに腰を下ろすと、テーブル用の炬燵布団を膝に掛けた。
そうしてメモ帳を開くと、シャーペンを手に取る。
一度話してそれっきりというお客さんもいるけど、中にはまた予約を入れてくれるお客さんもいるから、お客さんの名前や話してくれた内容はメモを取るようにしていた。
私を『愚痴聞き屋』に誘ってくれた友達が、「お客さんは自分のことを覚えててくれると、喜んでまた予約を入れてくれたりするから、メモを取るといいよ」とアドバイスしてくれたから、その通りにしているのだ。
実際どの程度効果があるのかはわからないけど、「○○の話をしてくれた△△さんですね」と言うと、確かにお客さんの反応はいい気がした。
私はシャーペンを持つ手と反対のそれでスマートフォンのロックを解除すると、購入者の名前を確認してみる。
そこには、『ペンタブ』と表示されていた。
男の人だろうか、それとも女の人だろうか。
私はそんなことを考えながら、アプリからお客さんに電話をかけた。
日時を指定しての予約ではなく、すぐに電話でやり取りしたいということだったから、お客さんはすぐに出てくれる。
「もしもし?」
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