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第6話 誰かからのメッセージ
衣替えをしてから、一ヶ月ちょっと経った土曜日の午後。
まだ五月に入ったばかりだけど、日差しはもう夏を感じさせる熱さだ。
汗で湿ったTシャツに気持ち悪さを覚えつつ、玄関のドアを開けた私は、にゃん三郎が入ったキャットキャリーを慎重に床に置いた。
そうしてドアがしっかりと閉まったのを確認してから、にゃん三郎をキャットキャリーの天井から出す。
今日はにゃん三郎に狂犬病の予防接種を受けさせるために、動物病院に行っていたのだ。
犬は自治体が狂犬病の集団接種の日を設けているけど、猫は動物病院で個別接種を受けるしかない。
犬の狂犬病予防接種は法律で義務付けられている一方、猫のそれは義務ではないからだ。
にゃん三郎は室内飼いで、他の猫と接触する可能性は低いから、狂犬病の予防接種は必ずしも必要ではないそうだけど、私は毎年にゃん三郎に予防接種を受けさせていた。
にゃん三郎が他の猫と接触しなくても、私は外でにゃん三郎以外の猫に触ることもあるし、気付かない内にどこかで猫に触った人と接触している可能性だってある。
予防接種で副作用が出ることもあるけど、今のところにゃん三郎に深刻な副作用が出たことはないし、用心するに越したことはないだろう。
私がにゃん三郎を廊下に下ろすと、にゃん三郎はいつもと変わりない足取りで窓の方へと歩き出した。
「予防接種の後だから、今日はあんまり走ったり、ジャンプしたりしないでね」
私はサンダルを脱ぎながら、にゃん三郎の背中にそう声を掛けたけど、にゃん三郎は何の反応もなく示すことなく、そのまま行ってしまった。
でも走らないのはわかってくれたからだと思ってしまうのは、都合良く考え過ぎだろうか。
予防接種がどんなものかはわからなくても、「走ったり、ジャンプしたりしないで」という言葉は十分わかりそうだと思うのだけど。
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