第6話 誰かからのメッセージ

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 平仮名やアルファベット辺りに変えて読むのがよくあるパターンみたいだし、私は試しにチェストからメモ帳とシャーペンを引っ張り出すと、「だっくいあつてきさ」と「DAKKUIATUTEKISA」と書き出してみた。  平仮名はともかく、ローマ字表記は「つ」を「TU」とも「TSU」とも書くし、ヒントもなしにこんなあやふやな表記を使うとは考え難い気がする。  文章が「ダック」から始まっているから、英語に直せばいいのかなとも思ったけど、「威圧的」という意味の単語はいくつもあって、どれを使えばいいのかわからないし、この解き方も違うのだろう。  今のところ、解き方が間違っているとある程度確信を持って言える理由がないのは、平仮名に書き換えるパターンだけだ。  でも、これも正しいとは限らない。  本当に正しいとしても、この訳のわからない平仮名の羅列をどう読み解けばいいのか、私にはわからなかった。  「だっくいあつてきさ」を逆さまから読んでみたり、一文字飛ばしで読んだり、いろいろな読み方を試している内に、ふと頭の中に光が閃くような感覚を覚える。  頭の中に文章が浮かぶより先に、言葉が口を突いて出た。 「『つきあってください』……?」  やっとわかった。    この暗号は、アナグラムだったのだ。アナグラムは文字の順番を入れ替えて別の文章を作る言葉遊びで、インターネットで見付けた暗号の解き方の一つにこれがあった。  意味は通るから、多分きちんと解読できたのだろうけど、余計に謎が深まった気がする。  この暗号を書き込んだ『テプバン』さんは、一体何を考えて見ず知らずの私にこんなメッセージを送ったのだろう。  やっぱりイタズラだろうか。  もしかしたら、『テプバン』さんにこの暗号を送った人がいて、暗号が解けなかった『テプバン』さんが私に助けを求めてきただけなのかも知れないけど。  それとも遊びや買い物に「付き合って欲しい」という意味なのだろうか。 考えれば考える程、わからなくなる。  でもここでこれ以上悩んでいても仕方がないのは確かで、私はメモ帳に『つきあってください』と走り書きをすると、アプリからログアウトした。  少しでも早く髪が渇くように髪に指を入れながら、まだ乾き切っていない髪を乾かしていく。  解けた謎とは正反対に、髪は絡まることが多くて、小さな痛みが私を苛つかせた。
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