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咄嗟に何を言われたのかわからなくて、音が耳を素通りする。
でも言葉の意味を理解した途端、顔が燃え上がるみたいに熱を帯びた。
大きく鳴った心臓に驚いて、思わず指先が震える。
いつの間にか息を止めていたことに気付いて息を吸おうとしたのに、息の仕方を忘れてしまったみたいに上手く行かなかった。
まだ余韻が引かない衝撃が、私の体を隅々まで支配している。
だって、これは告白だ。
軽々しくこの言葉を贈る人もいるけど、私にとってはとても重くて、大切な言葉をもらったのだ。
私がもう一度メモ帳に目を落とすと、『つきあってください』という文字の羅列の向こうに、ある筈のないきらめきが見える気がした。
闇の薄い夜空にうっとりするくらい溢れた星。
日の光をくすぐったそうに弾く川面。
蕩けながら光の中に消えていく、無数の雪の結晶。
この言葉に込められているのは、きっとああいうものに似た、とびきり綺麗なものだ。
それが言葉に掬い上げられて今目の前にあることが、とても尊いことのように思えた。
心の底から湧き上がってくる感情に任せて、大声で何かを叫びたいような、そんな気持ちになる。
大声なんて、多分子供の時以来一度も出したことがないのに。
私はやっと吸った息を吐き出すと、できるだけ平静を装って言った。
「……これ、告白だったんですね」
「はい」
『ペンタブ』さんはまたポップコーンを口に入れたみたいで、くぐもった声でそう言った。
「……何でこんな時まで食べてるんですか?」
「すみません。何か食べていた方が、緊張が紛れるもので」
『ペンタブ』さんが喋る度に、ポップコーンがきゅっと音を立てて、私は思わず脱力せずにはいられなかった。
このマイペースな『ペンタブ』さんが私を好きだなんて、やっぱり信じられない。
『ペンタブ』さんは時々電話でちょっと話すだけの、こんな私のどこをどう好きになったのだろう。
私は混乱する頭の中を、どうにか整理して言った。
「……あの、私のどこが良かったんですか?」
「優しいところです。僕がちょっと強引なやり方を使ったとはいえ、『肉球ぷにぷに』さんは僕の漫画に協力してくれましたし、友達や見ず知らずの子の力になろうともしてましたし、それに猫好きな人に悪い人はいないと言うのが僕の持論ですから」
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