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すみれがフランケンの肉球を触ったり耳の中を見たりと、犬を飼った経験者でしかわからないようなポイントのチェックをしはじめた。
「くすぐったいよ、すみれちゃん」
「ヘンなところを触られたら、『くすぐったい』って言うようにプログラムされているの?」
この指摘はAIのことをよく理解している証拠だ。
俺なんてフランケンが軽トラに轢かれた時に、痛そう!って思ったから。
「そうだよ。あたしは感覚がないからくすぐったさは感じないけど、特定の部位をこの強さで触られたらこんな反応をするっていうのが全部プログラムされてるの!」
フランケンは得意げに言う。
AIってやつは、ポジティブな感情表現ならできるようなプログラムも施されているんだろうか。
そんなことをふと考えた時、玄関の外で車のエンジンの音がした。
「あ、帰ってきたかも」
「お母さん?」
そうだと思う、と頷く。
「じゃあわたし、今日はこれで失礼しようかな。フランちゃん、また遊んでね」
「またね!」
すみれが立ち上がる。
ここでふと、イタズラを思いついた。
「本物の犬と勘違いするか、試してみようぜ」
フランケンを抱き、すみれと一緒に外へ出ると、ちょうど母さんが車から降りてくるところだった。
雨はもう上がっている。
「あら、いらっしゃい。お友達?」
母さんは少々面食らった様子で、俺とすみれとフランケンに向かって視線をせわしなく移動させている。
「はじめまして。朝比奈君の同級生の広沢すみれです。いつもお世話になっています」
すみれの完璧な挨拶に、母さんが嬉しそうに笑う。
「あらあら、こちらこそいつもありがとう」
声がいつもより2オクターブぐらい高くないか?
「今朝、朝比奈君が事故に遭ったワンちゃんを助けたと聞いて、見せてもらいにきました」
「あらぁ、そうなの?」
母さんが顔を近づけると、フランケンは打ち合わせ通り犬の鳴き真似をした。
「ワンワン」
コラ、下手すぎるだろ。怪訝な顔をされたじゃねーか。
このへんでやめておいたほうがよさそうだ。
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