第2章 広沢すみれ

8/8
前へ
/37ページ
次へ
「俺、すみれちゃんを駅まで送ってくるから」  まだあれこれ話したそうにしている母さんに背を向けた。 「おじゃましました」  すみれは頭を下げてから俺の横に並んで歩きはじめる。 「また来てちょうだいね~!」  背後から声をかけられると、また振り返って笑顔でペコリと会釈するすみれの様子に、なんて天使なんだろうかと思う。 「こいつのこと、他の人にはナイショにしておいてもらえる?」 「そうだよね、そのほうがいいと思う」  とんでもないAIロボットがいると噂され、SNSで拡散されたりすると面倒だ。  それに、すみれと秘密を共有するという優越感がたまらない。   「じゃあ、また明日ね!」 「また明日」  駅の入り口ですみれを見送った。  改札を通ってホームへ向かう階段の手前でもう一度こっちを振り返ったすみれが、笑顔で小さく手を振り、制服のスカートを翻して階段をのぼっていった。  振り返した手をゆっくり下ろす。 「はあっ……」  思わずため息が漏れた。  かわいすぎるっ!    駅前の信号待ちでフランケンを抱きながらつぶやいた。 「俺、もう死んでもいいかも」  今日の俺は最高に幸せだった。  車に轢かれずに済んでよかった。フランケンの言うことが本当の話だったらっていう条件付きだが。  その時だった。 「死んじゃダメでしょ! だったらあたしが代わるわ!」  フランケンが俺の腕から赤信号の横断歩道に向かって飛び出して――車に轢かれて死んだ。  ああ、神様。  AIは妙なところで融通が利きません。  そして俺は、今朝と同じことを繰り返す羽目になったのだった。    
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加