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「俺、すみれちゃんを駅まで送ってくるから」
まだあれこれ話したそうにしている母さんに背を向けた。
「おじゃましました」
すみれは頭を下げてから俺の横に並んで歩きはじめる。
「また来てちょうだいね~!」
背後から声をかけられると、また振り返って笑顔でペコリと会釈するすみれの様子に、なんて天使なんだろうかと思う。
「こいつのこと、他の人にはナイショにしておいてもらえる?」
「そうだよね、そのほうがいいと思う」
とんでもないAIロボットがいると噂され、SNSで拡散されたりすると面倒だ。
それに、すみれと秘密を共有するという優越感がたまらない。
「じゃあ、また明日ね!」
「また明日」
駅の入り口ですみれを見送った。
改札を通ってホームへ向かう階段の手前でもう一度こっちを振り返ったすみれが、笑顔で小さく手を振り、制服のスカートを翻して階段をのぼっていった。
振り返した手をゆっくり下ろす。
「はあっ……」
思わずため息が漏れた。
かわいすぎるっ!
駅前の信号待ちでフランケンを抱きながらつぶやいた。
「俺、もう死んでもいいかも」
今日の俺は最高に幸せだった。
車に轢かれずに済んでよかった。フランケンの言うことが本当の話だったらっていう条件付きだが。
その時だった。
「死んじゃダメでしょ! だったらあたしが代わるわ!」
フランケンが俺の腕から赤信号の横断歩道に向かって飛び出して――車に轢かれて死んだ。
ああ、神様。
AIは妙なところで融通が利きません。
そして俺は、今朝と同じことを繰り返す羽目になったのだった。
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