第3章 未来の朝比奈家

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第3章 未来の朝比奈家

 うんと疲労して帰宅した俺を、母さんは好奇心いっぱいの様子で出迎えた。 「一樹! すみれちゃんったら、いい子じゃない。付き合ってるの?」 「付き合ってなんかないよ。ホントにこいつを見にきただけだから」    フランケンの両脇を持って見せると、母さんは途端に顔を曇らせる。 「事故に遭った犬を助けたのは立派だと思うけど、犬ってお世話が大変でしょう? お金もかかるし。どうする気なの?」  そうだよな。小学生の頃からずっと、猫か犬を飼いたいと懇願し続けてきたが、同じ理由で却下され続けてきた。  だからケガをしている犬を助けたと美談をでっちあげたところで、うちで世話しようとはならず、警察に届けようとか保健所に相談しようと言われるだろうとわかっていた。  だ・け・ど! 「ちがう。これ本物の犬じゃないから」 「え?」  俺の返事が予想外だったのだろう。戸惑って固まる様子に内心大笑いしながら続けた。 「これ、AIロボットだよ。ただのオモチャだから、金もかかんないし不衛生でもないし世話もいらないから」 「そうだよ、あたしフランケン! AIだから大丈夫!」  突然人間の言葉をしゃべりだしたフランケンに、母さんが驚いて「ひっ」と息を呑む。  その様子を見て、してやったりと満足しながら階段を上った。  部屋に戻ってフランケンを下ろし、まずやったことはゆららちゃんグッズの撤去だ。  ボーカロイドのゆららちゃんはショートボブの明るいキャラで、すみれによく似ている。  ゆららちゃんに似ているからすみれを好きになったわけではない。逆だ。すみれに似ているからゆららちゃんに興味を持ち、フィギュアを愛でポスターにキス……おっと、ド変態がバレそうだからこれぐらいにしておこう。  ポスターを壁から剥がして丸め、フィギュアやアクリルスタンドと一緒に紙袋に入れた。 「カズキ、なにやってるの?」  フランケンが尻尾を振りながら興味津々な様子で俺を見上げている。 「ボーカロイドとの疑似恋愛と、邪な妄想に決別してるんだよ」  紙袋をクローゼットの奥に押し込んだ。  ゆららちゃん、いままでありがとう!  振り返るとフランケンが固まっていた。目が点滅している。 「ボーカロイドとは音声合成技術の一種であり、感情はありません。しかし訴えかけるような歌声やキャラクター設定によって、人間がボーカロイドに恋愛感情を抱くことはあります」  抑揚のない機械音声が流れる。  ボカロに抱く恋愛感情と邪な妄想は、AIにはちょっと難しかったみたいだな。  
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