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「迷子か? よしよし。悪いな、もう行くからおまえも家に帰れ」
しゃがんでそっと下ろし、三角形の耳の間、艶やかな毛並みの額をなでる。
不覚にも手触りがいいなと思ってしまったのは内緒だ。
せっかく善人ぶって親切にしてやったのに、黒柴はまたもや大きな声でしゃべりはじめた。
「カズキ、今日この時間帯に信号を渡っちゃいけないよ!」
「何言ってんだよ、信号渡らないと電車に乗れねえだろ」
もうすぐ信号がまた青に変わるはずだ。今度こそ横断歩道を渡って早く駅に辿り着きたい。
「じゃあ代わりに、あたしが車に轢かれてあげるから!」
「いやいやいや、何言ってんの!?」
代わりに車に轢かれるって何の話だ、さっぱりわからない。
「大丈夫! だってあたし、死なないもん!」
そう言うや否や、黒柴はまだ赤信号の横断歩道に飛び出した。
ブレーキとクラクションの音がけたたましく鳴り響く。
黒柴が白い軽トラックにぶつかって跳ね飛ばされる様子を視界に捉えた瞬間、咄嗟に目を背けた。
恐る恐る目を開けると、止まった軽トラの数メートル先に黒柴が倒れている。
え、首も足もヘンな方向に曲がってね?
目は白目だし……つーか、死んでるよな。
なにが「あたし、死なないもん!」だよ。死んでんじゃねーか!
――これが、俺とフランケンとの出会いだった。
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